ブックタイトルメカトロニクス11月号2020年

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概要

メカトロニクス11月号2020年

MECHATRONICS 2020.11 51日本の産業構造の変化にともなう電子機器分野の話題商品を追う第29回 <半導体の登場で話題商品が変わる>役割をほぼ終えているが、半導体では実現が難しい高周波/大電力を扱う特殊な用途での増幅素子として現在でも使われている。 日本でも放送局用や防衛省向けとして真空管が製造されている。また、マニア向けのオーディオアンプや楽器用アンプなどでは、現在も真空管による増幅回路に用いられるため、それらの用途のための真空管が製造されている。 ところで日本でもトランジスタの試作が電気試験所で1953 年に検討され、1954 年に東京通信工業(現ソニー)がトランジスタの工業化を開始し、翌1955年に同社から日本初のトランジスタ・ラジオ「TR-55」(写真3)が商品化された。トランジスタを使っての話題商品となった製品である。 なお、このトランジスタ・ラジオには、ジャングル配線から脱皮して紙フェノールプリント配線板が初めて採用された。1~2) トランジスタの登場により、機器の小型化に寄与するとともに低消費電力に伴い、電池駆動で長時間、楽しめるようになった。その後、相次いで大手電機メーカーも量産を開始し、1958 年あたりには主な電機メーカーからトランジスター・ラジオが商品化されるに至った。真空管時代からトランジスタ時代の幕開けである。 その当時、大手電機メーカーは、トランジスタが広く採用されるのを睨んで1958 年に川崎にトランジスタを専門に製造するトランジスタ工場を建設して月産120 万個体制で量産を開始している。 この新工場は空調のため窓なしの構造になっており、都心の映画館名になぞらえて「テアトル東芝」などと呼ばれた。 トランジスタの応用は更に拡大し、遂に1960 年春には8型では世界初のトランジスタ・テレビ(写真4)がソニーから発売された。トランジスタ・ラジオを商品化してわずか5年後で、しかも世界初の製品化である。3.「集積回路」の発明 接合型トランジスタを発明したところから、技術の進化が始まった。そして、1959 年にテキサス・インスツルメンツ社の技術者であったジャック・キルビーが集積回路(IC=Integrated Cirucit)を発明した。 基板上にトランジスタや抵抗、コンデンサなどを載せて電子回路を形成したものが集積回路である。 ショックレーやキルビーはゲルマニウム(Ge)を使用して集積回路を形成したが、現在ではほとんどの半導体素子はシリコン(Si)の高純度単結晶基板の上に作られている。 その後、集積回路の集積密度は1.5年で2 倍、3 年で4 倍、15 年で1000 倍に高まるという経験則を1965年にインテル社の創業者の一人でもあったゴードン・ムーアが「ムーアの法則」を提唱した。「集積率が上がること」は、「性能が上がること」と同義であり、生産コストも下がることであり、以降、「ムーアの法則」に信じ、集積密度をあげるためにひたすら微細化に邁進した。4.「高集積化」の進展 微細化とは半導体に用いられる配線やトランジスタの最小線幅及び間隔を狭くしていくことを言う。 微細化により単位面積当たりの素子数を増加させることが可能となる。このことは例えば、同一記憶容量のメモリーを作った場合、1枚のシリコンウェーハから取れるチップの数が増すことになり、1チップ当たりのコストを安くすることができる。他方、同一面積のチップを作製した場合には、1チップ当たりの記憶容量を増加させ、より多くの情報の格納が可能となる。3) 半導体の価格は「集積回路の生産開始から累積生産量が2倍になると、価格は、27.6%低下する」という経験則がある。その結果、「最初の高値から急速に約3ドル(π)に下降し、その後、その1/2(1.5ドル)へと緩やかなカーブで収斂し、寿命を終える」・・・ という「πの法則」がある。 半導体プロセス技術は、大容量化・高性能化・低コスト化などの要求に応えるよう急速に進歩し、微細化技術は半導体製品の高集積化の牽役として世界中の半導体メーカーが先を争って開発を進めることになる。 集積回路(IC)の集積度が進み、小規模集積回路(SSI= Small Scale Integration Circuit:100素子以下)から中規模集積回路(Medium ScaleIntegrated Circuit:素子数100 ~1000 個)へと進み、そして大規模集積回路(LSI=LargeScale Integration Circuit:素子集積度が1000~10 万個)へと飛躍を遂げ、さらに1980 年代は超大規模集積回路(VLSI=Very Large ScaleIntegrated Circuit:素子集積度が10万~1000万個)、1990 年代の超々大規模集積回路(ULSI=Ultra Large Scale Integration Circuit:素子集積度が1000 万個以上)へと技術革新が進んだ。 2000 年代に入るとシステムLSI(多数の機能を1個のチップ上に集積した超多機能LSI)の生産が本格化していった。 そして集積回路の技術進化にともなって電子機器は、小型化、軽量化、薄型化、高機能化、高速化、低消費電力化などを実現することができ、新たな電子機器や高性能な電子機器が生まれ、それが話題商品となっていった。そのような話題商品が、またさらなる半導体の進歩を促していった。 半導体は、今や「現代産業における米」とも称されるようにもなったのもうなずける。今、主流のシリコン系半導体にいずれ限界が訪れ、より高速大容量通信に耐えうる化合物系半導体の時代が来ることが予想されている。<参考資料>1)木原信敏、“ソニー技術の秘密” Field Archive Inc pp154 ~pp158(2018)2)青木正光、“日本の産業構造の変化にともなう電子機器分野 の話題商品を追う<第11 回プリント配線板の登場>”メカ トロニクス Vol.44 No.5 p44(2019)3)杉本茂樹 et.al、“ 半導体プロセス技術の進歩と課題” 東芝 レビュー Vol.59 No.8 pp2~pp7(2004)5 石スーパーヘテロダイン方式のトランジスタ・ラジオの1 号機の価格は\18,900で、1955 年8 月20日にブランド名に「ソニー」を採用して販売されたこのラジオにはプリント配線板が初めて使用され、プリント配線板に部品搭載後はんだ槽によるディップソルダーによる自動化を達成した生産方式であった。写真3 トランジスタ・ラジオ(東京通信工業/TR-55) 写真4 世界初の8型トランジスタ・テレビ(ソニー/8-301W)図1 1948年7月1日付けのニューヨーク・タイムズ紙で紹介された記事