ブックタイトルメカトロニクス8月号2020年

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概要

メカトロニクス8月号2020年

MECHATRONICS 2020.8 45日本の産業構造の変化にともなう電子機器分野の話題商品を追う第26回 <電子機器の安全対策としての難燃化>ノール銅張積層板が使用されるようになった。この頃からフェノール樹脂の難燃化が叫ばれるようになり、フェノール樹脂に難燃剤として、テトラブロモビスフェノールA、臭素化ノボラックエポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂などの臭素系難燃剤、トリクレジルフォスフェート、トリフェニル・トリイソプロピルホスフェートなどのリン系難燃剤、三酸化アンチモンの難燃助剤などが使用されていた。 三酸化アンチモンは樹脂に添加するのではなく、使用するコットンリンター紙に5%程度、抄き込まれていた。その基材に難燃性フェノール樹脂を含侵塗布してプリプレグを作成して紙フェノール銅張積層板を得ていた。 アンチモンをすき込んだ原紙を使用すると銅張積層板の透明性が劣ることから暫くするとオーディオのマニアから嫌われる傾向があり、三酸化アンチモンを使用しないタイプへ移行した。フェノール樹脂の難燃化には様々な難燃化方式が開発されたが、その主な推移を示すと、「臭素系難燃剤」+「三酸化アンチモン」→「臭素系難燃剤」+「リン系難燃剤」→「リン系難燃剤」へと推移していった。4. 難燃剤 難燃剤は、繊維、木材、プラスチック、ゴム等の高分子有機材料を難燃化するために広く使用され、火災による人的・経済的損失を防止するのに役立っている。主な難燃剤の種類を示すと表1のようになる。その難燃剤に関する小史を体系化してみると表2 のようになる。米国のカラーテレビの火災事故の影響を踏まえての対策なのか1969年に2社が難燃剤を販売するようになった。 さらに1972 年から1973 年にデパート火災事故と北陸トンネル火災事故が発生し、難燃化の重要性が指摘され、1970年代になると難燃化が活発化して各社から難燃剤が販売されるようになった。 以上、カラーテレビが原因による火災事故が端を発して電子機器に使用される材料や部品は難燃化されたものが使用されるようになり、難燃化技術が1970年代に開発された背景を理解して頂ければ幸いである。<参考資料>1.西沢 仁、“プラスチックの難燃化はどこまですすんだか”  工業材料 Vol. 29 No.6 p18(1981)2.青木正光、“ プリント配線板のUL 取得” 技術調査会 p44  (1994)3.東京消防庁、“最近の特異火災から<スカイシティー南砂マ  ンション火災の概要>” pp34?pp38  https://www.isad.or.jp/pdf/information_provision/  information_provision/no19/34p.pdf表1 代表的な難燃剤の種類表2 難燃剤の小史 臭素系難燃剤1 デカブロモジフェニルオキサイド2 TBAエポキシオリゴマー・ポリマー3 TBAカーボネートオリゴマー4 TBA-ビス(2-ヒドロキシエチルエーテル)5 TBA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)6 TBA-ビス(アリルエーテル)7 トリブロモフェニルアリルエーテル8 トリブロモネオペンチルアルコール9 ビス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)エタン10 ポリジブロモフェニレンエーテル11 テトラブロモシクロオクタン12 臭素化ポリスチレン13 エチレンビステトラブロモフタルイミド14 エチレンビスペンタブロモジフェニル15 ヘキサブロモシクロドデカン16 ヘキサブロモベンゼン17 オクタブロモジフェニルエーテル/オクタブロモジフェニルオキサイド18 トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート19 テトラブロモビスフェノールS20 ペンタブロモトルエン 塩素系難燃剤1 塩素化パラフィン2 塩素化ポリエチレン3 デクロランプラス(パークロロシクロペンタデカノン) リン系難燃剤1 リン酸エステル系2 含ハロゲンリン酸エステル3 縮合リン酸エステル4 ポリリン酸塩系5 赤リン難燃剤 無機系難燃剤1 水酸化アルミニウム2 酸化アンチモン3 水酸化マグネシウム4 ホウ酸亜鉛5 ジルコニウム系6 モリブデン系7 スズ酸亜鉛8 グアニジン塩9 シリコーン系10 ホスファゼン系化合物年 代国出来事古代ローマ最初の難燃剤はローマ時代に見張り台の延焼防止に使われた1786 年フランスフランス劇場火災事故で繊維の難燃化を開始18 世紀硫酸アンモニウム処理の発見19 世紀アンモニウム塩に錫酸塩とタングステン酸塩の耐水性コーティング1826 年フランスフランス人の化学者アントワーヌ・ジェローム・バラールによって臭素が発見された2 世紀米国米空軍が塩素化パラフィンと酸化アンチモンの組合せによる難燃化技術を発見1963 年日本鈴裕化学の創業者鈴木 裕が個人的に難燃剤の研究を開始1969 年日本松永化学工業(現 マナック)が難燃剤の製造を開始第一工業製薬がプラスチック用難燃剤「ピロガード」を開発1970 年前後米国・日本米国でカラーテレビによる火災事故に端を発し、プリント配線板や筐体の難燃化技術が進歩する1970 年5 月日本大八化学が可塑剤から難燃剤の製造に展開三光がフォスファフェナントレン系の有機リン系難燃剤「HCA」の製造を開始1971 年日本鈴裕化学がゴム、プラスチック用難燃助剤の委託製造を開始1972 年9 月米国難燃性試験UL-94が制定される1974 年4 月日本「プラスチック難燃剤懇話会」が発足1976 年東都化成が「臭素化エポキシ樹脂」を開発し、フェノール樹脂の難燃剤として使用される1977 年東ソーがDeca-BDE の製造を開始1977 年10 月三光が難燃剤「GHM」の製造を開始1980 年頃縮合リン酸エステル開発1982 年スイススイス連邦研究所がPBDE sを添加したプラスチック燃焼時に臭素化ダイオキシン/フラン類が発生することを公表1985 年日本東ソーがテトラブロモビスフェノール A(TBA)を販売(生産能力は3000 トン/年)東ソーが新プロセスによる新工場で純度99% 以上のDeca-BDE の生産を開始鈴裕化学が三酸化アンチモンを販売1986 年ドイツドイツ化学工業会がポリブロムビフェニール(PBB)、ポリブロモジフェニルエーテル(PBDE)の自主的に生産を中止することを公表1987 年北欧北欧の野鳥の鳥卵から PBDE を検出したことを公表1988 年日本松永化学工業(株)よりマナック株式会社に社名変更1991 年東ソーがTBA の生産能力を増強(10000 トン/年)OECD 鉛、カドミウム、水銀、塩化メチレン、特定臭素系難燃剤をリスクリダクションにリスト1993 年オーストリアPBB を使用禁止北欧(Noric Swan) PBB を使用禁止ドイツ(Blue Angel)複写機の50g 以上の部品にはPBB とPBDE を使用するとBlue Angel の認証が得られない1996 年プリンタ・ファックスにPBB、PBDE、塩パラを使用するとBlue Angel の認証が得られない日本難燃材料研究会が発足1996 年1 月日本難燃剤協会に会名変更1996 年5 月スイスプリント回路世界大会で東芝ケミカルがハロゲンフリーコンポジット銅張積層板(CEM-3)について口頭発表1997 年日本臭素科学・環境フォーラム(BSEF)を設立北欧(Noric Swan) 複写機にPBB、PBDE、塩パラを使用するとNordic Swanの認証がえられない1998 年ドイツ(Blue Angel) 複写機にPBB、PBDE、塩パラを使用するとBlue Angel の認証がえられない2003 年ノルウェー2010 年までPenta-BDE、Octa-BDE、Deca-BDE、HBCD、TBBPA の監視することを提案2004 年4 月日本化審法改正によりHBCD が第一種監視化学物質に指定2004 年8 月EU Penta-BDE、Octa-BDE の使用禁止2005 年8 月カナダカナダのトロント・ピアソン国際空港でエアフランス358便のエアバスが300m もオーバンランして炎上事故が発生したが、航空機が難燃化されていたため退避可能時間が延び、死亡者はゼロとなった2005 年10 月EU RoHS指令で禁止予定であったDeca-BDEを除外し、対象外とした2006 年1 月アメリカ・ハワイ州0.1% 以上Penta-BDE、Octa-BDE を含む製品の製造・加工・販売を禁止デンマークDeca-BDE の除外は、執行権限を超えたものとして欧州裁判所に法的是正を求める手続きを実施2006 年6 月アメリカ・カリフォルニア州0.1% 以上Penta-BDE、Octa-BDE を含む製品の製造・加工・販売を禁止2006 年8 月スウェーデン Deca-BDE の使用禁止を決定し、2007年1 月1 日から施行する2007 年5 月ノルウェー臭素系難燃剤HBCD、TBBA など18 種類を規制する案(PoHS)をEUおよびWTO に報告2007 年8 月日本沖縄・那覇空港で中華航空のボーイング737 の炎上事故が発生したが、航空機が難燃化されていたため退避可能時間が延び、死亡者はゼロとなった2009 年5 月POP 臭素系難燃剤(Hexa-PBB、Tetra-BDE、Penta-BDE、Hexa-BDE、Hepta-BDE)を付属書A に追加し、廃絶扱いに2013 年5 月ノルウェーDeca-BDE を残留性有機汚染物質のためにストックホルム条約(Stockholm Convention for Persistent Organic Pollutants)に追加する提案を提出2013 年日本帝人が新規リン系難燃剤「FCX-210」を開発2017 年6 月日本UL は機能性材料の分野で世界初となるVerified Mark(以下検証マーク)を化学品メーカー株式会社ADEKA のリン系難燃剤「ADK STAB FP-2000 シリーズ」に対し発行した2017 年7 月アメリカ・ワシントン州幼児向け製品にTBBPA, TDCPP(Tris(1,3-Dichloro-2-Propyl)Phosphate), TCEP(Tris(2-Chloroethyl)Phosphate),decaBDE(decabromodiphenyl ether), HBCD(Hexabromocyclododecane)を1000ppm 以上含有禁止図2 日本の火災事故件数(消防白書)