ブックタイトルメカトロニクス8月号2020年

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概要

メカトロニクス8月号2020年

44 MECHATRONICS 2020.8第26回 <電子機器の安全対策としての難燃化> 電子機器の安全対策には、機器の本質的な電気・電子回路の安全対策が重要であることは勿論のこと、万が一、機器から予期せぬ発煙や発火などが発生した場合を想定して、使用される材料や部品などは難燃化が施され、燃焼を食い止める、あるいは延焼しないように燃えやすいプラスチックを難燃剤で難燃化して燃え難くしている。今回、電子機器に利用されている難燃化技術の動向について解説する。1. 安全規格の改訂 前回、1970 年前後に米国でカラーテレビによる火災事故が多発したことを報告し、その対策の一つとして燃焼性試験方法の確立であり、UL94として1972年に制定されたことを報告した。難燃化の重要性が再認識されたためか、1969年には難燃剤を商品化している点から考えてみるとカラーテレビの火災事故が関係していると思われる。 UL規格が発行されて、しばらく使用していると不都合な部分が出てくる場合がどうしてもあるため、その部分の改訂が必要となってくる。前回、紹介したUL492規格に適合するかを試験したのは、12版(1968 年9 月発行)であった。1928 年に第1版を発行して以来、約3 年ごとに改訂を加えたものであった。1)例えば、具体的な事故につながった場合には原因を究明すると同時に、新たに規制を強化することになる。 ULはラジオ受信機に関しての安全規格としてUL492を1928 年に第1 版を制定している。以後、約3年ごとに改訂し、テレビの安全規格も包含するようになり、UL492(Radio and TelevisionReceiving Appliances)で規定された。その後、1976年にUL1410(Television Receiversand High- Voltage Video Products)へと変わり、UL1409(低電圧ビデオ)、UL1270(音響製品)の規格と統合されて、UL1492(Audio VideoProducts and accessories)になった。 UL6500(Audio/Video and MusicalInstrument Apparatus for Household,Commercial, and Similar General Use )や特定非営利活動法人 日本環境技術推進機構 青木 正光IEC 規格と統合されたUL60065(Audio, Videoand Similar Electronic Apparatus)と推移し、IT機器の安全規格UL60950と統合してUL62368-1(Audio/video, information and communicationtechnology equipment - Part 1: Safetyrequirements)へと推移している。 過去にテレビの火災事故で難燃性の試験方法が試料の保持方法を横方向から縦方向に変更して、より厳しい試験方法にしたり、電子機器の使用電圧や電力により難燃性のグレードを規定したりして改訂を実施した例がある。テレビに関しての一例を示すと図1 のように年代とともに規格が改訂されていることが分かる。初期の頃はテレビで電圧が2500V 以下で、50W 以下で使用される部分に使う材料の難燃性の規定はなかった。その後、1974年になるとフェイズⅠ規制で電力では50W 以下に15Wが設けられ2500V 以下には94HB の難燃性が規定されて少し厳しくなった。そして電圧では2500V 以下に42.4V の境が設けられて、それぞれ、使用される材料の難燃性レベルが規定されて厳しくなった。1977 年のフェイズⅡ規制では特性レベルごとに要求項が異なる方式に修正変更されたこともある。2)2. 高層マンションの火災事故 このように、より安全を求めてテレビの安全対策が実施されたが、日本でテレビによる火災事故が発生したのである。しかも高層マンションの最上階に近い階で発生したために問題となった。 1989 年8 月24日16 時頃、東京都江東区南砂の高層マンション(28階建てのスカイシティー南砂)で発生した火災で、高層化建築時代の新しい都市型災害を象徴する出来事であった(写真1)。逃げ遅れた2 名を救出するためにヘリコプターによって救助された。3)24階から出火し、1戸(183.9m2)を全焼し、幸いにも焼死者はいなかったものの負傷者は6名となった。火災の原因はテレビからの出火であった。テレビによる火災は、8 分以内に部屋が燃えてしまう程の威力がある。この火災事故であらためて電子機器が原因による火災から、難燃化の重要性が再認識されるようになった。 日本で発生する火災事故の件数を示すと図2 のようになり、減少傾向にあるものの年間、約4 万件におよび、焼死者数は年間約1,500 名にもなる。火災予防の観点からも電子機器に対しても対策が必要であることは言うまでもない。製品安全の観点から電子機器の難燃化が要望される背景がある。 最近の電子機器には多くのプラスチックが採用されるようになり、燃え易くなったためプラスチックの難燃化は大きな課題として捉え、様々な難燃化技術が開発されている。3. 難燃化の始まり ローマ時代の見張り台の延焼防止に使われたのが最初の難燃化の始まりとも言われるが、明確な事実で残っているのは、1786年で、フランスのパリでフランス劇場火災事故が発生し、繊維の難燃化の研究が開始されたのが難燃化技術の開発とも言われている。戦後、開発された高分子材料が広く採用されるようになり、燃え易い材料の難燃化が検討されるようになった。つまり、難燃剤を使うことにより、難燃化を達成するものである。不燃化は無理として燃え難くする手段として利用される。3-1. 難燃化の手法 ここでは、カラーテレビに使用されるプリント配線板に用いられる紙フェノール銅張積層板の難燃化の手法を中心に紹介することにする。ブラウン管式テレビ1台には、プリントは配線板が1/9~1/12m2 の面積に相当するほど使用されていた。ブラウン管式テレビは据置型でブラウン管の大きさもあって奥行きがあり、大きなサイズのプリント配線板も問題なく搭載するスペースがあった。 米国でカラーテレビによる火災事故が起きた頃にカラーテレビに使用されていた紙フォエノール銅張積層板は、非難燃タイプのXXXPCグレードの紙フェノール銅張積層板であった。規制が強化されたことにより、難燃タイプのFR-2やFR-1 の紙フェ図1 UL規格改定の一例(UL492→UL1410) 写真1 スカイシティー南砂電圧2500V電圧2500V94V-1以上規定なし1974年50W 電力 15W 電力 15W 電力42.41977年94V-1以上94HB94V-1以上電圧2500V94HB 94V-2以上94V-2以上南東側から見た全景火点室