ブックタイトルメカトロニクス3月号2020年

ページ
44/52

このページは メカトロニクス3月号2020年 の電子ブックに掲載されている44ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

メカトロニクス3月号2020年

44 MECHATRONICS 2020.3   日本の産業構造の変化にともなう電子機器分野の話題商品を追う第21回 <裏の技術(2)>連載  「話題商品」を生産する上で、重要な役割を担う表面に出てこない「裏の技術」についての続きを紹介しよう。1-3.生産技術/製造技術 日本の製造業の強みは、「高度な技術」と「高度な技能」をもったベテランが若手にその生きたノウハウを現場で身をもって伝承するとともに、かつボトムアップ方式の改善活動があり、これが日本のモノづくりを支えており、モノづくりの文化でもある。 モノづくりの心構えとして「現地現物」が重要である。“ 現場に行って”、“ 現物を見て”、“ 事実を確認する心構え” の三現主義が必要で、もし問題点があれば、改善を皆で一丸となって解決していくことがモノづくりで重要な点になる(図1)。 徹底した無駄の排除によって生産性向上や在庫削減を目指す方式に、トヨタ自動車が確立したトヨタ生産方式(TPS=Toyota Production System)がある。 この方式は、2000 年頃から自動車業界から電機業界での採用が広がっていき、独自の生産方式も盛り込み、在庫圧縮に貢献するとともに納期の短縮にも寄与するようになった。まさに国内生産で競争力の源泉となった。 必要なものを必要な時に必要なだけ作るジャスト・イン・タイム(JIT=Just in Time)の生産には、「かんばん方式」が工程間在庫を最小に抑え、作り過ぎを防ぐ点で大きく寄与した(写真1)。1) 最近は、この「かんばん方式」を参考にしつつ企業によっては改善を加えて実施する企業が現れてきた。例えば、無線タグ(RFID)を使っての「見える化」を実践し、効果をあげている企業もある。 在庫を極力もたない同期生産態勢のJIT生産方式に見直しが迫られたのが、新潟沖地震によるリケン・柏崎事業所の生産停止であった。突発的なトラ特定非営利活動法人 日本環境技術推進機構 青木 正光ブルに対しての対応が求められる結果となった。 次に、日本がもっとも得意とする生産技術/製造技術は、ロボットによる自動化、生産方式、品質管理などに優れている点である。 自動車業界では、早くから溶接ロボットや塗装ロボットが導入され、省人化と生産性向上に寄与した(写真2)。 エレクトロニクス業界では、電子回路基板に実装される電子部品や半導体デバイスは、挿入タイプから表面実装タイプへと変化し、表面実装技術の進展により、日本では電子機器の電子回路基板実装にチップマウンタが使用され、コストダウンに役立っている(写真3)。2) 同じ製造設備を保有していても同じ歩留にはならない。企業の現場の努力によって改善されるものであって、「現場力」をどれだけ保有しているかによって同じ設備でも大きな差が生じる。この「現場力」では、多くの日本の企業が独自に確立し、そのノウハウを保有している。 同じ設備でも現場の創意工夫による改良/改善が実施されて、強い生産技術/製造技術となる。このような製造技術の確立ができるのは、日本の企業の現場主義からきているボトムアップ方式の改善運動によるところが大きい。 海外で最新鋭の設備を導入したものの歩留良く生産できないのは、製造設備を上手に使いこなして、日々の改善努力が実施されない点にある。 モノづくりには、組み合わせ型(モジュラー型)と摺り合わせ型(インテグラ型)の二つのタイプがある。 組み合わせ型は、既成部品を寄せ集めて組み立てるモノづくり。効率的な運営、大量生産、資金力、集中力、安価な労働力などを駆使して、いかに安く効率良くモノづくりをしていくかが競争力の源泉となっている。米国、韓国、台湾、中国などが得意とするモノづくりである。 これに対して、摺り合わせ型は多様な技術を応用し、最適設計された多くの部品を調整して組み立てる方法で、日本や欧州が得意とするモノづくりである。日本企業は、よいモノをつくろうとの志が高く、摺り合わせ型を得意とする。 特に日本では、設計技術部門と生産現場とが連携を強め、技術力を生かしてチームワーク力で新製品を開発していくことを強みの源泉としている。デジタル家電、複写機、自動車などは、この「摺り合わせ型」によるモノづくりである。 摺り合わせ型製品は簡単には真似されないので競争力も維持することができるといった強みがある。 日本の自動車産業が強いのは、この摺り合せ型に起因していると言われ、日本人の緻密さ、職人気質、相互信頼などが絡み合って、多くの企業が協力しながらきめ細かく、丁寧に仕上げていくスタイルであるとも言われている。 日本が得意とする「摺り合わせ型」モノづくりは、自動車産業とエレクトロニクス産業を比較すると明らかに優劣がついて、自動車産業は典型的な「摺り合わせ型」モノづくりである。 摺り合せ技術に強い日本は、この強みを如何に発揮するかにある。 エレクトロニクス業界は、ITの発展に伴ってモジュラー化によって簡単な生産方式へ進展したために、日本型のモノづくりの仕組みの優位性が揺らぎつつある。 モジュール化が進んだエレクトロニクス産業では、基幹部品を握るメーカーが最大の利益をあげることになる。 モジュールの組み合わせでは、設備さえあれば誰でも出来る時代となっている。組み合わせだけでは付加価値はもたらさない。この分野では、世界中図1 三現主義写真1 かんばん置き場(トヨタ) 写真2 溶接ロボット(日産)現場現物現実