ブックタイトルメカトロニクス3月号2014年

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概要

メカトロニクス3月号2014年

50 MECHATRONICS 2014.3【第131 回】里地里山について(1)~生態系と生物多様性とのかかわり~ ■環境問題における“里地里山”の位置づけ ■“里地里山”について ■里地里山に関係する年表 ■「環境基本計画」における“里地里山”【第132 号】里地里山について(2)~「環境基本計画」、「21 世紀環境立地戦略」等が取り上げた諸問題~ ■「第4 次環境基本計画」で取り上げられた  “里地里山”問題 ■「21 世紀環境国地戦略」 ■生物多様性条約第10 回締約国会議  (COP10)での関連イベント ■里地里山保全・活用検討会議【第133 回】里地里山について(3)~里地里山を守るための各種の取り決め~ ■ SATOYAMA イニシアティブ ■里地里山法 ■「生物多様性国家戦略」の策定とその改訂【第134 回】里地里山について(4)~「生物多様性国家戦略2012-2020」~ ■「第5 次戦略」策定の経緯 ■「第5 次戦略」のポイント ■「第5 次戦略」の構成 ■「第5 次戦略」における“里地里山”の記述【第135 回】里地里山について(5)~里地里山を守るための運動~ ■テレビ番組で取り上げられた里地里山 ■鎌倉市における緑保全の市民運動 ■環境省の「里地里山保全再生モデル事業」 ■神奈川県秦野地域における  里地里山保全再生モデル事業日本産業洗浄協議会専務理事 相模環境リサーチセンター 所長 小田切 力里地里山について(6)~現在進行中の里地里山保護運動の実例(その1)~【第144回】■再開発対象となった横浜市の緑地地区ここで紹介する緑地地区開発で問題となっている場所は、“神奈川県横浜市栄区上郷・瀬上沢地区”と呼ばれ、現在の住所表記では、神奈川県横浜市栄区の上郷・瀬上地区を中心とする丘陵地帯である。この開発の計画は、その地域名をとって「上郷開発計画」と呼ばれている。 東急建設(株)は、1992 年に「上郷開発計画」を横浜市に提出したが、同地域は市街化調整区域に指定されていたため、農地転用について神奈川県が許可する見込みがないということで計画は頓挫・中断したままであった。 しかし2005年に至り、東急建設(株)が都市計画提案制度を利用して「上郷開発計画」を再び浮上させ、3月に横浜市都市経営執行会議が本計画を了承した。 同計画の概要は以下のようなものであった。・計画面積:33.9 ヘクタール・計画人口:2,050 人・集合住宅:21,000m2(10 階建て31m)・店舗(1):126,700m2・店舗(2):11,000m2・老人ホーム:8,900m2・自動車発生集中交通量:平日8,900 台           休日9,100 台・緑地面積:合計169,000m2(50.4 %)■開発の対象となった上郷・瀬上地区(1)地理的位置 現在の地図上では、JR 根岸線の洋光台駅南側、標高152m の円海山(横浜市磯子区峰町)の南部の麓に広がる丘陵地帯がそれで、“上郷市民の森”、“瀬上市民の森”、“氷取沢市民の森”、“金沢市民の森”、“横浜自然観察の森”が北から南へ近接して並び、その東側には、高速道路“横浜横須賀道路”を隔てて“金沢自然公園”、“釜利谷市民の森”がある。 瀬上沢の森林地帯は、横浜7大緑地注2)の一つと呼ばれている円海山域の一部を構成し、瀬上沢はその入口にあたっており瀬上沢緑地とも呼ばれている。注2)横浜市は、「水と緑の基本計画」を策定し、市内の自然環境の保全・向上を図っているといい、この中で、市郊外に比較的まとまって残る緑地帯を「緑の七大拠点」とし、同計画推進の軸にしているとのことである。「緑の七大拠点」は以下のとおり。1 小柴・富岡2 円海山周辺3 舞岡・野庭4 大池・今井・名瀬5 川井・矢指・上瀬谷6 三保・新治7 こどもの国周辺 また、東上郷町の東隣りにある上郷町の栄区と港南区の区境に「瀬上市民の森」があり、さらに上郷町・東上郷町の西側に「上郷市民の森」があり、それらの地区をまとめて環境保全の対象となる地域と考えられて「上郷・瀬上地区」と呼ばれている。瀬上市民の森には「瀬上池」があり、その池に直結した瀬上沢は下流で「いたち川」注3)と合流し、その後柏尾川、境川を経由して江ノ島の北側で相模湾の河口に至っている。注3)いたち川:“いたち”の漢字表記は、通常は“鼬”や“鼬鼠”であるが、地元では“??”とされている。 瀬上沢は横浜南部栄区に位置して、円海山から鎌倉、三浦半島へと連続したグリーンベルトの玄関口でもある。 開発予定地は鎌倉建長寺の裏山から横浜市磯子区、港南区、栄区につながる横浜最大の緑地の北端に位置している。(2)生態系の特徴 円海山域は希少動物や植物が生息する生態系豊かな自然の宝庫となっている。標高150 m前後の里山としては谷が深く、オオタカも営巣し生物多様性に富んだ緑地である。 いたち川と瀬上池を含む瀬上沢緑地の湿地帯は、横浜市第一のホタル自然発生地であり、源氏ホタル、平家ホタルとも生息しており、最盛期の6月には多くの人が鑑賞のためこの地域を訪れている。 円海山域は昆虫が豊富に生息し、その種類は4千種を超すと言われており、その生態を30年間観察し続けている研究家がその記録を発表しているが、その間の生物相の変化を分析して、減り続ける緑地を保全することの大切さを訴えている注4)。注4)この研究家は神奈川県立横浜栄高等学校の教諭である久保氏であり、円海山域で採取した昆虫を紹介する展示会を同学校その他で開催している。( 3)文化遺産 本開発地域における遺跡については、従来より上郷猿田遺跡(縄文時代後期・奈良時代)、上郷深田遺跡(製鉄遺跡)等が知られていた。 横浜市埋蔵文化財調査委員会は、横浜市道路局よりの委託をうけて、上郷深田遺跡発掘調査団を組織し、1986~87年に製鉄関係遺跡の再調査を行った4)。その結果、見出された遺構は、製鉄関係の炉と考えられるもの18ヶ所、製銅関係とみられる炉1ヶ所、鍛冶炉を伴う竪穴遺跡1ヶ所、砂鉄を出土した竪穴遺構1ヶ所、住居址同様の構造をもつ竪穴住居状の遺構5 ヶ所のほか、性格不明の特殊な構造をもつ特殊遺構3 ヶ所の存在を確認している。 また開発予定地には、世界的にも珍しい160万年前の貝化石の露頭や、江戸時代に作られた灌漑用の横堰が存在する。■地元住民による「上郷開発計画」への問題提起 横浜市におけるこの緑地開発計画に対して、地元では緑地保護を訴える団体が組織された。その団体「上郷開発から緑地を守る署名の会」の資料から、問題点の概要を紹介する2() 詳細なデータについては、横浜市に提出した陳情書に記されており後述する)(図1)。 ①計画地は横浜最大・最良の緑地を破壊する②予定地は自然と文化遺産の宝庫である③「栄区マスタープラン」との不整合がある④今回の開発計画は都市計画提案制度本来の趣旨から逸脱している⑤大型商業施設がもたらす不安要素がある⑥周辺地域に悪影響を及ぼす・道路の渋滞・区画道路による住環境の破壊・自然防風林の伐採による風害の悪化・集中豪雨のよる水害の多発  本シリーズ「里地里山について」ではこれまでの連載中に、筆者が現在住んでいる神奈川県における里地里山の保護運動において、活動の成果が定着している事例を2件紹介した。 すなわち、一つは20数年にわたる地元の住民運動によって丘陵地の緑を守り抜いた鎌倉市の事例であった(鎌倉広町の森)。もう一つは、環境省における里地里山の保全活動のモデルとして、全国から選ばれた僅か4件の中の一つである秦野市の事例である(秦野市における里地里山保全再生モデル)。今回は、現在進行中の里地里山保護運動の事例として、神奈川県横浜市の場合を紹介したい。本事例では、古来から緑の豊富だった広大な丘陵地を開発して居住地区をつくる都市計画を建設企業が計画しており、その認可をめぐって行政と地元居住者との間で緑地の保全について意見をたたかわせている。このような事例は、これからも、日本のどこの場所にでも生まれる可能性を内在している問題と思われる。 本誌「メカトロニクス・デザイン・ニュース」の編集部には、これまで里地里山に関する連載については、読者からの声として好意的な感想が寄せられている。今回紹介する進行中の事例についても読者の身近な場所でも起こりうる出来事としてご意見を頂ければ幸いである注1)。注1)ちなみに本テーマ「里地里山について」の過去掲載の目次は以下の通り。