メカトロニクス3月号2013年

メカトロニクス3月号2013年 page 49/60

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概要:
MECHATRONICS 2013.3 492.インボリュート歯車の歯形(つづき)2.2 創成歯切り ラック状の工具を用いて、これを紙面に垂直な方向に往復運動をさせながら、データム線に沿って一定の速度で動かし、円板状の歯車素....

MECHATRONICS 2013.3 492.インボリュート歯車の歯形(つづき)2.2 創成歯切り ラック状の工具を用いて、これを紙面に垂直な方向に往復運動をさせながら、データム線に沿って一定の速度で動かし、円板状の歯車素材をラック速度に比例した角速度で回転すれば、インボリュート歯車が得られる。図2.2では円板を回転させる代わりに、固定した円板のまわりにラック工具を逆に回転して、歯が創成される状態を示した。 なお、創成(generation)とは、単純な形状(直線、円弧)の工具の単純な運動(直動、回転)によって、複雑な形状の輪郭を形成することをいう。インボリュート歯形は直線状の刃によって創成できる。 カッタを紙面に垂直に往復させるような加工法はシェーピング(shaping、形削り)という。また、とくに歯車の場合には、その動作がひげ剃りに似ていることからシェーヴィング(shaving)ともいう。また、ラック刃形をねじ状に形成して、その回転によって加工を行なうことをホビング(hobbing)といい、その工具をホブ(hob)、加工機をホブ盤という。これらを総称して創成加工法という。 歯車の加工法としては、創成加工法以外に、放電ワイヤカットで輪郭をくり抜いていく方法、歯形状に成型されたパンチを用いて、打ち抜きを行なう方法、歯形の凹部一枚分に相当するカッタを作って、一枚づつ割り出しながら形削りを行なう方法などがある。2.3 工具刃形と歯車歯形の関係 ラック形の工具によって歯車を加工するときの工具と歯車との接触の状態は同一形状をしたラックとピ二オンの噛合い状態と同じである。 いま、一定の速度v=Δs/Δtで図の右方に動いているラックが一定の角速度ω =Δθ/Δtで右方に回転している歯車と噛合っているとする(図2.3)。台形形状のラック工具の斜辺に相当する切刃の微小部分を図Pで表わす。このPによって加工された歯車の微小部分をQとすると、PとQが接していたのはRにおいてであり、この瞬間に切刃Pが歯面Qを切削(仕上げ切削)したことになる。接触点Rは作用線上にあり、この作用線は基礎円に接している。 作用線の方向はラックの運動方向と工具圧力角αc(= 20°)をなしており、歯形の中心線(ラックの運動方向に垂直な方向)を一定点Opで切る。Opはピッチ点である。歯車素材の回転を素材上の各点の速度ベクトルで表わし、ラックの運動もラック上の点の速度ベクトルで表わしたとき、両者が一致するのは、たった一点、ピッチ点においてのみである。 ラックと歯車との「速比」v/ω =Δs/Δθはピッチ円半径r1=OgOp となる。歯車の創成加工においてはラックの送り速度と素材円板の回転角速度の比がこの値になるように、ラック工具と素材円板との相対運動を与える。 ラック工具の形状から歯形の形状を求めるには上の関係を用いる。すなわち、点Pを左方に作用線に突き当たるところまで戻して点Rを求め、これを歯車中心の回りにΔθだけ回して点Qを求めれば良い。 なお、以上の計算はインボリュート歯形以外の部分にも用いることができる。この場合には作用線の代わりに工具輪郭の法線を用い、これがピッチ点を通る所をR 点とすれば良い。2.4 非転位歯車 ラック工具のデータム線(ピッチ線)が歯車のピッチ円と接するような配置で歯切りを行なった歯車を非転位歯車あるいは無転位歯車という。(以前には標準歯車と呼ばれていた。) 歯車の歯数をz 1、モジュールをm、工具圧力角をαcとすると、ピッチ円半径r 1および基礎円半径rb 1は下式で与えられる。   r1= mz1     2   rb 1= r1cosαc                     ( 2.2) ラック工具と歯車の噛合い点(接触点)は作用線上を移動し、作用線はピッチ点を通って基礎円に接する。こうして創成加工された歯形の一例を図2.4に示す。2.5 転位歯車 非転位歯車において歯数が多い場合には問題はないが、歯数が少なくなるとピッチ円半径に比して歯たけが大きくなるため、歯元においては切下げ、刃先においては尖りの問題を生ずるようになる。そのため、ラック工具を外側、あるいは場合によっては内側にずらして加工することがあり、これを転位(profi le shift)といっている。ラック工具のデータム線を歯車のピッチ線と接する位置から外側にx1m(モジュールのx1倍)だけずらしたとき、x1mを転位量、x1を転位係数(rack shiftcoeffi cient)と呼ぶ。転位は当初、切下げを防止する目的で行われたが、曲げ強度の改善や心間距離の調節など、さまざまな効果があることが分ってきたので、今日では広く一般に使われている。本設計法でも、転位を行なうことを前提として算式が用意されている。なお、転位係数を0とすることによって非転位歯車が得られる。 図2.5は歯数10 枚の場合について、転位係数を変化させたときに歯形がどのように変化するかを示したものである。a)b)c)とも工具ラックの形状寸法は同一である。 (正の)転位を行なうと外径が大きくなるので、「速比」 も大きくなるように思いやすい。しかし、これは間違いで、転位を行なってもラックに対するピッチ点は移動せず、速比は変化しない。これは、そうなるというよりも、そうなるように設定して加工しているというべきであろう。インボリュート歯車の設計牧野オートメーション研究所長 山梨大学名誉教授 牧野 洋第3回図2.2 インボリュート歯車の創成(z1 = 6、x1= 0.2) 図2.5 転位係数による歯形の変化a) z1=10, x1=0 切下げあり、尖りなしb) z1=10, x1=0.5 切下げなし、尖りなしc) z 1=10, x 1=1.0 切下げなし、尖りあり図2.3 ラック形工具によるインボリュート歯形の創成図2.4 創成された非転位歯車の一例( z1 = 40、x1 = 0)RQPOpOgαc