香川大学(小野貴史助教、創造工学部材料物質科学コース)、慶應義塾大学(ヴォイチェフ・ロガ特任講師、武岡正裕教授)、および国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー)、藤原幹生研究センター長、三木茂人室長、寺井弘高上席研究員、和久井健太郎主任研究員)の共同研究グループは、シリコン光集積回路を用いた、ユニバーサルな量子分類器の原理検証実験に成功しました。本研究成果は、2023年7月6日(米国東部時間)に米国物理学会の有力雑誌Physical Review Lettersに掲載されました。 論 文 題 目:Demonstration of a Bosonic Quantum Classifier with Data Reuploading 著 者:T. Ono, W. Roga, K. Wakui, M. Fujiwara, S. Miki, H. Terai, M. Takeoka *研究内容の詳細については、別紙をご覧ください。

■  Data Reuploadingと呼ばれる手法により、ユニバーサルな光量子分類器の構成法を確立。
■  シリコン光集積回路に実装し、2次元データの分類により光量子分類器の原理実証に成功。
■  シリコン光集積量子回路の新しい応用を開拓する重要な一歩。 

【概要】
 機械学習の中でも、分類器は教師有り学習と呼ばれる手法の一つで、教師データに基づいて、入力データをある特定のカテゴリへ分類するものです。近年、このような機械学習に量子力学の原理を活用した量子機械学習に関する研究が盛んに行われています。本研究では、これまで理論的に提案されていたData Reuploadingと呼ばれる量子分類器の手法を光量子回路へ適用し、ユニバーサルな光量子分類器が実現可能であることを示しました。さらに、シリコン光集積回路を使って光量子分類器を実装し、約94%の正答率で2次元データを分類することに成功しました。本研究により、光量子分類器の原理が実証されたことに加え、シリコン光集積量子回路の新しい応用の可能性が示され、今後のさらなる発展が期待されます。

別紙
【研究背景】

 近年、機械学習の手法を量子回路へ適用した、量子機械学習アルゴリズムに関する研究が盛んに行われています。機械学習の中でも、分類器は教師有り学習と呼ばれる手法の一つで、教師データに基づいて、入力データをある特定のカテゴリへ分類するものです。通常、量子分類は、量子状態への入力データのエンコード、量子状態操作、量子測定の三つのステップで実行され、その実装モデルに依存して分類器の特性が決まります。
 量子分類器を実装する手法の一つに、ニューラルネットワークのモデルを用いたものがあります。これは量子回路を並列的に準備し、入力データの情報を分散的に記憶させる手法です。一方で、この手法を拡張するには、複数の量子回路とキュービットを並列的に準備する必要があるため、その実装には理論的にも実験的にも難しいという課題がありました。
 このような背景の下、2020年にData Reuploadingと呼ばれる手法を利用することで、一つのキュービットで量子分類器が実現可能であることが理論的に示されました(Quantum 4, 226 (2020))。この手法は、量子回路を複数のレイヤーに分割し、それぞれの量子回路へ逐次的に入力データの情報を記憶させる手法です。特に、この手法では、量子回路のレイヤー数を増やすことで漸近的にユニバーサルな分類器を実現することが可能です。一方で、この手法の光量子回路への適用方法については明らかではなく、光量子回路を使った実装は報告されていませんでした。

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【研究成果】
 本研究グループは、Data Reuploadingによる分類手法を光量子回路へ適用する手法を構築し、ユニバーサルな光量子分類器が実現できることを提案しました。さらに、シリコン光集積回路を使って量子分類器を実現することに成功しました。
 我々は、光干渉計を多段に組合わせることで、プログラマブルな光集積量子回路を実装し(図2)、Data Reuploadingの手法を使って光量子回路を学習させました。今回の原理検証実験では、光量子回路へ入力される光子数が平均して2個程度になるまでレーザー光強度を減衰させ、実験を行っています。

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まず、初段の回路を使って任意の量子状態を準備し、準備した量子状態を使って後段の光量子回路を学習させています。
 今回の原理検証実験を行うにあたっては、2次元の入力データを想定し、2次元のデータで指定される点が円の内側にあれば負、円の外側にあれば正といった具合に、分類を行いました。今回、200個の教師データを使って量子回路を学習し(図3(a))、学習させた回路を使って任意の入力データを分類しました(図3(b))。その結果、約94%の正答率でデータを分類することに成功しました。

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【今後の展開】
 本研究では、Data Reuploadingの手法を光量子回路へ適用し、シリコン光集積回路を使ってユニバーサルな量子分類器を実装することに成功しました。今回の原理検証実験では、レーザー光を弱めた疑似光子源を利用しましたが、今後は量子もつれ光子を利用することで、さらなる分類器の発展が期待されます。近年、シリコンフォトニクスを利用した量子情報処理分野は急速に発展しており、本成果は実用的な光集積量子回路の応用への第一歩になるのではないかと考えています。
 本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)さきがけ(JPMJPR1864)、村田学術振興財団、島津科学技術振興財団、JST CREST(JPMJCR1772)、JST共創の場形成支援プログラム(JPMJPF2221)、JSTムーンショット型研究開発事業(JPMJMS2061)の助成を受けて実施されました。

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【各機関の役割】
香川大学:シリコン光集積回路による量子分類器の実証
慶應義塾大学:量子分類手法の確立
情報通信研究機構:単一光子検出システムの提供

【各機関連絡先】
香川大学 創造工学部 助教 小野貴史
E-mail:ono.takafumi@kagawa-u.ac.jp
TEL:087-864-2404
※上記不在の場合 香川大学 林町地区統合事務センター
総務課 庶務係 大森・北村
E-mail:shomu-t@kagawa-u.ac.jp
TEL:087-864-2000 FAX:087-864-2032

慶應義塾広報室
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国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)
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