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2023年3月30日

日本電信電話株式会社

世界で初めて、サブテラヘルツ帯において毎秒1.4テラビット無線伝送に成功
~IOWN・6Gで実現する新しい無線サービスの創造に貢献~

日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、2030年代の無線需要を支えるテラビット級無線伝送の実現をめざし、32GHzにわたる超広帯域幅を利用した、OAM(Orbital Angular Momentum:軌道角運動量)(※1)多重伝送を実現し、毎秒1.44テラビットの大容量無線伝送に世界で初めて成功しました。本成果は、135GHzから170GHzのサブテラヘルツ帯(※2)を用いて実現され、毎秒1テラビットを超える膨大な情報を無線アクセスで利用可能とする革新的無線通信技術として、NTTがグローバルパートナーと実現をめざすIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想における光を中心とした大容量通信ネットワーク・情報処理基盤を6Gを含む無線ネットワークに拡張するものです。本技術を発展させることで、VR/AR(仮想現実/拡張現実)や高精細映像伝送、コネクティッドカー、遠隔医療を含む将来の多様なサービスの創出および普及に貢献することが期待されます。
 本技術の詳細は2023年5月28日から開催される国際会議IEEE ICC (International Conference on Communications)にて発表を予定しています。

図1:OAM多重伝送技術のイメージ、および大容量無線伝送の動向 図1:OAM多重伝送技術のイメージ、および大容量無線伝送の動向

1.研究の背景

IOWN・6Gにおける大容量のネットワーク・情報処理基盤を支え、増大する将来の無線通信需要に備えるため、NTTではテラビット級無線伝送の実現を目標に研究開発に取り組んでいます。無線通信の容量を増大するためには、空間多重(※3)数の増加、伝送帯域幅の拡大、変調多値数の増加の3つの方向性があります。これらの内、NTTはサブテラヘルツ帯を用いて伝送帯域幅を拡大するとともに、軌道角運動量(OAM)を持つ電波を用いた新しい原理により空間多重数を増加させることで、無線伝送の大容量化を図っています。
 OAMとは、電波の性質を表す物理量のひとつであり、OAMを持つ電波(以下「OAM波」)は、同一位相の軌跡が進行方向に対して螺旋状になります(図1)。OAM波は、(例えばボルトとナットの関係のように)同じ螺旋構造をもつ受信機でのみ受信できます。そこで、異なる螺旋構造を持つ複数のOAM波を重ね合わせても、それぞれのOAM波に対応した螺旋構造で受信できる受信機を用意すれば、互いに干渉することなく分離することができます。この特徴を利用して、複数の異なるデータを同時に伝送する技術がOAM多重伝送技術です。2010年代以降は、ミリ波帯などを用いたOAM多重伝送の研究成果が世界的に報告されています。これまでにNTTでも、ミリ波帯などを用いて100 Gbps・100m超のOAM多重伝送の実証実験(※4)を進めてきました(図1)。

2.研究の成果

NTTは、Butler Matrixと呼ばれるアナログ回路(以下「Butler回路」)を用いて複数のOAM波を多重処理することにより、空間多重数を増加させるアプローチをとっています。このアプローチでは、1テラビットを超える大容量通信において、異なる螺旋構造に対応する電波間の干渉を除去するための膨大なデジタル信号処理を低減することができます。
 今回NTTは、サブテラヘルツ帯導波路技術の研究開発を推進し、広帯域かつ低損失で動作するアンテナ一体型Butler回路を開発することに成功しました(図2)。このアンテナ一体型Butler回路は、135GHzから170GHzの非常に広い帯域で、8個の異なるOAM波を同時に生成および分離できるように設計されており、これを用いることで8個のデータ信号を多重して伝送することができます。また、異なる2つの偏波でそれぞれOAM多重伝送を行うことで、互いに干渉することなく2倍の16個のデータ信号を同時に多重して伝送できます。このアンテナ一体型Butler回路を用いて伝送試験を実施し、135.5~151.5GHzと152.5~168.5GHzのサブテラヘルツ帯を用いて合計1.44Tbpsの大容量無線伝送に世界で初めて成功しました(図2)。
 これは、現在の動画サイトなどで視聴できる超高精細4K動画(40Mbps程度)約35000本を同時伝送できる速度に相当し、超低遅延が必要なアプリケーションにおける非圧縮4K動画(10Gbps程度)を140本以上同時伝送可能となる速度です。

図2:サブテラヘルツ帯で開発されたアンテナ一体型Butler回路と伝送実験の様子 図2:サブテラヘルツ帯で開発されたアンテナ一体型Butler回路と伝送実験の様子

3.技術のポイント

  • Butler回路により8つのOAM波を同時に伝送するためには、電波の位相を極めて高い精度で制御する必要があります。電波の位相の進み方は周波数によって異なるため、アナログ回路によって広帯域にわたり位相を均一に制御することは非常に困難です。そこでまず本研究では、自由空間とは異なる導波路内の特有の電波伝搬を解析し、理論的に広帯域にわたって位相の進み方を均一に揃えることが可能な位相回路を考案しました。
  • 性能劣化要因である回路の平面交差をなくし、すべての経路が電気的に等しい長さになるように、先述の位相回路を含む多層立体経路(図3)を設計することにより、35GHz幅以上にわって各OAMモードに必要な位相を与えることができるButler回路の試作に成功しました。
  • Butler回路は中空導波回路として設計されており、一般的な誘電体基盤回路などと比較して誘電損失や電波の漏洩を防ぐことができるため、高周波回路であるにもかかわらず低損失を実現したことも特徴のひとつです。

図3:Butler回路の多層立体経路概略図 図3:Butler回路の多層立体経路概略図

4.今後の展開

今回の成果は、光伝送系に匹敵する広帯域かつ高速な無線伝送を実現するとともに、OAM波の多重処理をアナログ回路が担うため、多重処理のための複雑なデジタル信号処理システムを要することなく、シームレスに無線伝送系と光伝送系を接続できるようになることが期待されます。
 次のステップでは、基地局間の無線バックホール/フロントホールや中継伝送など、図4に示す本技術の利用用途例を含めて実社会における様々な用途を想定し、100mを超える長距離での実証実験に取り組んでまいります。最終的に本技術が展開されることにより、IOWN・6G時代の革新的無線通信技術として、VR/AR(仮想現実/拡張現実)や高精細映像伝送、コネクティッドカー、遠隔医療など、将来の多様なサービスの創出および普及を支えていくことが期待されます。

図4:本技術の利用用途例 (上:無線バックホール/フロントホール、下:無線による臨時回線・非圧縮8K/16K伝送) 図4:本技術の利用用途例
(上:無線バックホール/フロントホール、下:無線による臨時回線・非圧縮8K/16K伝送)

【用語解説】

※1OAM(Orbital Angular Momentum)
軌道角運動量。電波の性質として、位置座標とそれに共役な運動量の積で表される電波の持つ角運動量のひとつで、異なる軌道角運動量を持つ電波は相関がないため、重ね合わせても独立に分離できます。

※2サブテラヘルツ帯
おおむね100GHz~1THzにある周波数帯のことで、波長が数百マイクロメートルから数ミリメートルと非常に短く、強い直進性があることが特徴です。

※3空間多重
複数のデータ系列を、空間的に独立な複数の電波を用いて、同時刻・同周波数帯において並列に伝送する伝送方法です。

※4NTTニュースリリース「毎秒100ギガビット無線伝送を、世界で初めて新原理(OAM多重)を用いて成功 ~5Gの次世代を実現する革新的無線通信技術を開拓~」
https://group.ntt/jp/newsrelease/2018/05/15/180515a.html

本件に関する報道機関からのお問い合わせ先

日本電信電話株式会社
先端技術総合研究所 広報担当
nttrd-pr@ml.ntt.com

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