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生体への適用が可能なpH可視化プローブの開発 脳深部におけるpHのリアルタイム観察に成功

【発表のポイント】

  • 多機能ファイバ1)と半導体センサ2)の複合により、生体への適用が可能なpH可視化プローブを初めて開発した
  • 脳内の複数点におけるpHの微小変化を、高感度かつ非標識で補足することに成功した
  • 脳が正常に活動している状態とてんかんを起こした病態において、脳深部の海馬におけるpHをリアルタイムで可視化することに成功した

【概要】

脳の正常な活動には、適正なイオンバランスが不可欠です。特にpHは、ある一定の範囲内で厳密に調節されており、その範囲を大きく超えると脳の異常活動を引き起こすと指摘されています。高い時間・空間分解能で脳内のpHを測定できれば、脳機能の理解、病気のメカニズムの解明や予防・治療に繋がることが期待されます。

東北大学の学際科学フロンティア研究所郭媛元助教(本学医工学研究科・医学系研究科兼務)と医工学研究科吉信達夫教授、医学系研究科虫明元教授らは、熱延伸技術3)で作製された多機能ファイバと、イオン濃度分布を可視化できる半導体化学イメージセンサ2) を組み合わせることで、生体埋め込み型の新しいpH可視化プローブを開発し、脳内の複数点においてpH変化を同時に高感度で測定することを可能にしました。また、世界で初めて、脳深部の海馬において、疼痛刺激に伴うpHの微小変化をリアルタイムで補捉することに成功しました。さらに、脳がてんかんを起こした病態において、海馬におけるpHをリアルタイムでイメージングすることにも初めて成功しました。

本研究成果をまとめた論文は、バイオセンサ分野におけるトップジャーナルである「Biosensors and Bioelectronics」に11月28日付で掲載されました。

図 1:pH可視化プローブの開発と脳内pH測定への応用。多機能ファイバとイオン分布を可視化できる半導体センサLAPSの複合により、pH可視化プローブを開発することができた。さらに、脳深部におけるpHの変化を高感度かつリアルタイムで可視化することに成功した。

【用語解説】

1) 多機能ファイバ
直径100〜500µm程度の繊維の中に、光・電気・液体・化学・機械など、さまざまな要素を操作したり測定したりするのに必要な構造を集積したものである。

2) 光アドレス型半導体化学センサ(LAPS)
LAPSは化学センサの一種であり、非標識(ラベルフリー)でセンサ表面のpH分布を取得することができる。LAPSは電解質溶液-絶縁体(Si3N4/SiO2)-半導体(Si)からなる構造を有している。Si3N4表面がpH感応部として機能する。外部から電圧を印加した状態で半導体基板に変調光を照射すると、光励起により外部回路に交流光電流が流れる。この光電流はSi3N4表面上の溶液のpHに依存している。したがって、外部回路に流れる交流光電流の振幅値を計測することにより、照射領域における試料のpH測定が可能である。このように、LAPSでは光の照射面積で測定領域を定義できるという特徴があるため、光でスキャンして得られる各測定点の光電流値から、Si3N4表面上の溶液のpHの二次元分布を取得することが可能である。

3) 熱延伸技術
熱延伸技術で利用できる材料は単一の材料に限定されず、金属・半導体・ポリマーなど多種類を組み合わせることが可能である。この技術は「金太郎飴」を作る方法と似ており、最初に、必要な多種類の材料を組み合わせた大きいプリフォームという成形物を作り、これを加熱しながら引き伸ばすことによって、電気・化学・光などの機能をマイクロからナノレベルで集積した、長さ数千メートルのファイバを作製することができる。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関して)
東北大学学際科学フロンティア研究所
助教 郭媛元
E-mail:yyuanguo*fris.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関して)
東北大学学際科学フロンティア研究所
URA 鈴木一行
電話:022-795-4353
E-mail:suzukik*fris.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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