液体材料による色鮮やかな発光を実現

形状を自由に変形できる液体材料による
色鮮やかな発光デバイスを開発
 

発表のポイント

  • 液体発光材料である液体有機半導体を用いたマイクロ流体有機ELからの発光は、スペクトル幅が広く発光色が色鮮やかでなかった。
  • 液体有機半導体と量子ドット水溶液を組み合わせることで、従来の液体有機半導体を用いた発光デバイスの中で、最も発光色が色鮮やかなデバイスを実現。
  • フレキシブルディスプレイへの応用や次世代ディスプレイ設計への寄与が期待される。

発表の概要

早稲田大学理工学術院庄子習一(しょうじしゅういち)教授 、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構水野潤(みずのじゅん)研究院教授、同機構の桑江博之(くわえひろゆき)招聘研究員、基幹理工学研究科修士課程2年の河村匡泰(かわむらまさひろ)氏らの研究チームは、常温下で液状の液体有機半導体と量子ドット水溶液を組み合わせることで、液体材料ベースで極めて色鮮やかな発光を示すデバイスの開発に成功しました。この手法により、自由に形状が変形できる液体の利点を維持しつつ、従来の液体有機半導体を用いた有機ELデバイスの中で最も色鮮やかな発光を実現しました。これは、曲げへの強い耐性と色純度の高い発光を必要とするフレキシブルディスプレイの実現に有用な技術であると考えます。また、本研究で見出した、量子ドット発光層の厚さと発光特性との関係は、次世代ディスプレイとして期待される量子ドットを用いた発光デバイス作製に大いに貢献すると考えています。

本成果の詳細は、2020年9月3日発行の英国Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されました。
【論文情報】
・掲載誌:Scientific Reports
・論文名:Liquid/solution‑based microfluidic quantum dots light‑emitting diodes for high‑colour‑purity light emission
・DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-020-70838-w

 

発表の内容

1.これまでの研究で分かっていたこと

現在、有機ELデバイスは、面発光や広視野角、フレキシブル性等の観点から注目を集めており、ディスプレイの技術として広く利用されております。一方、2009年に九州大学の研究グループより報告された液体有機ELは、常温化で液状の液体有機半導体を発光層として用いており、その柔軟性により、曲げ時のクラック発生による素子の劣化を回避でき、曲げの制限がないフレキシブルデバイスの実現に向けた革新的な技術となりました。早稲田大学庄子習一研究室・水野潤研究院教授らは、液体有機半導体の液性を活用するために、従来の生化学分野において応用されていた微細な流路構造により液体を制御する技術であるマイクロ流体技術と組み合わせることで、マイクロ流体有機ELを開発しました。これにより、1チップ上で異なる種類の液体発光層の塗分けが可能になっただけでなく、曲げに強くフレキシブル性を示すデバイスや、駆動により劣化した液体発光層を入れ替えることで発光の再生を可能にするデバイスなどを展開してきました。しかしながら、従来の液体有機半導体を用いた発光デバイスは、発光のスペクトル幅の指標となる半値全幅(※1)が広く、発光色が色鮮やかないために、ディスプレイへの応用の際の課題となっていました。

2. 今回の研究で新たに実現しようとしたことおよびその独自の手法

本研究は、青色の液体発光材料を用いた有機ELをバックライトとして、その上に緑と赤色の量子ドット水溶液を集積し、励起・発光させることにより、液体材料ベースでの色鮮やかな発光の実現を目的としました(図1)。量子ドットとは、微細な半導体粒子のことであり、その特異性からスペクトルの半値全幅が狭く色鮮やかな発光を示すだけでなく、発光色を調整可能であることや量子効率(※2)が高いことなどから次世代のディスプレイ材料として注目されています。デバイスは、ガラス基板とITO(※3)透明電極からなるバックライト上に、シリコーンゴムを用いて作製した流路構造を積層しました。また、青色の液体発光材料は、液体有機半導体のNLQ(日産化学(株)製)を液体ホスト材料として用い、それに青色発光材料の固体有機半導体であるDPAをゲスト分子として添加する手法により調整しました。そして、調整した青色の液体発光材料をバックライト部に、緑と赤色の量子ドット水溶液をシリコーンゴム製の流路にそれぞれ注入しました。流路の深さを制御し、量子ドット水溶液にバックライトの青色光を緑と赤色に変換する役割とバックライトの光を遮断する役割を持たせることで、色鮮やかな発光が実現可能であることを示しました。


図1 液体有機半導体と量子ドット水溶液を組み合わせた発光デバイスのコンセプト図

3.今回の研究で得られた結果及び知見

作製したデバイスに電圧を印加することで、バックライトからの青色と量子ドット水溶液により変換された緑と赤色の発光を得ました(図2(a))。スペクトルにおいてはバックライトの青色成分が遮断され、スペクトル幅の狭い緑および赤色発光であることを確認しました(図2(b))。さらに、光の混合比を数値化して表現するCIE表色系を用いて評価した結果、緑と赤色のプロットはCIE色度図の外周部付近に位置しており、極めて色鮮やかな発光であることを確認できました(図3)。この結果は、従来の液体有機半導体を用いた発光デバイスの中で最も色鮮やかなものであり、フレキシブルディスプレイへの応用に向けた第一歩であると考えています。

 図2 デバイスの(a)発光画像および(b)スペクトル

 図3 デバイスからの発光のCIE値

また、流路深さを増加させて量子ドット発光層を厚くしたところ、緑と赤色発光の両者においてスペクトルのピーク位置が長波長側にシフトするとともに、スペクトルの半値全幅が狭くなることを確認しました(図4)。量子ドットは粒子サイズによって光学特性が変化するという特徴があり、粒子サイズの小さなものから大きなものへとエネルギー移動が起きることが知られています。流路深さが増大すると、このエネルギー移動の影響が強くなるため、粒子サイズの小さな量子ドットからの発光が抑制され、粒子サイズの大きなものからの発光が支配的になることで、上述した現象が確認されたと考えます。この結果は、量子ドットを用いた発光デバイスの作製に大いに貢献すると考えます。

 図4 流路深さと発光特性の関係

4.研究の波及効果や社会的影響

形状を自由に変形できる液体材料は、従来の固体材料を用いた発光デバイスとは異なる特徴を持つ新たなディスプレイへの応用が期待されています。本研究では、液体有機半導体と量子ドット水溶液を組み合わせることで、ディスプレイへの応用の際の課題となる色鮮やかな発光を実現しました。量子ドット水溶液という液性の材料を組み合わせているため、形状を自由に変形できるという液体材料の利点は維持されます。そのため、この手法は、曲げへの強い耐性と色純度の高い発光を必要とするフレキシブルディスプレイの実現に有用であると考えます。また、本研究で見出した量子ドット発光層の厚さと発光特性との関係は、次世代ディスプレイとして期待される量子ドットを用いた発光デバイスの作製に大きく寄与すると考えます。

5.今後の課題

今後は、フレキシブルディスプレイへの応用に向けて、フレキシブル基板を用いてのデバイスの作製を進めるとともに、色鮮やかな青色発光の実現および各発光色の最適化のために、液体有機半導体に添加する固体有機半導体ゲスト分子の検討を行っていきます。

6.用語説明

※1 半値全幅

山型関数の広がりを表す指標。ピーク値の1/2の強度となる2点の間隔を示します。発光スペクトルにおいては、発光色の色鮮やかさを評価する際などに用いられています。

※2 量子効率

物質が外部からの光を吸収して発光する際に、吸収したエネルギーに対する発光エネルギーの比率。

※3 ITO

酸化インジウムスズ(Indium tin oxide)。酸化インジウムに数%の酸化スズを添加した化合物であり、その電気・光学特性、並びに高い耐性などから透明電極として広く用いられています。

7.論文情報

・掲載誌:Scientific Reports
・論文名:Liquid/solution‑based microfluidic quantum dots light‑emitting diodes for high‑colour‑purity light emission
・ 著 者  :Masahiro Kawamura, Hiroyuki Kuwae, Takumi Kamibayashi, Juro Oshima, Takashi Kasahara,Shuichi Shoji, and Jun Mizuno
・ DOI   : https://doi.org/10.1038/s41598-020-70838-w

8.研究助成

研究費名:若手研究No. 18K13770
研究課題名:MEMSと液体有機ELの融合による高性能蛍光計測用光源の開発
研究代表者名(所属機関名):桑江博之(早稲田大学)

研究費名:基盤研究(B)No. 19H02444
研究課題名:材料表面のナノ構造を利用した低温固相接合技術の探求と接合メカニズムの解明
研究代表者名(所属機関名):西川宏(大阪大学)、研究分担者名:水野潤(早稲田大学)

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