ブックタイトルメカトロニクス3月号2019年

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概要

メカトロニクス3月号2019年

10 MECHATRONICS 2019.3 御社を設立した経緯などについてお聞 かせください大原 : 私は、2010 年に東京大学大学院の修士課程を修了し、大手電機メーカーに就職しました。何年か仕事をしていく中で、自分の次のステップについて考える時期があり、社内で新たなことにチャレンジしていくのか、それとも転職をするのかなど色々と悩んだ末に、起業を志すようになり、2015年7 月に退社した後、同年11月に当社を設立しました。 ただ、起業を決意した当初の事業については、設立してすぐに上手く行かない状態になり、一旦別のベンチャー企業で経験を積んでいこうと思い、就職先を探していました。 鈴木は、大学で同じ研究室に在籍し、彼が先輩で直接指導を受けていました。卒業してからも定期的に会っており、鈴木は当時も、そのまま研究室に残り、助教を務めていました。 偶々、就職先を探しているタイミングで会った時に、鈴木もこれからのキャリアや、当時研究開発していた無線通信技術の活用法などについて悩んでいる状況でした。色々話していく中で、「一緒にやらないか」という話しになり、彼が研究開発していた無線通信技術を「ソナスのコア技術として事業を成功させよう」と意気投合しました。 2016年1月に一度大学に戻り、1年3ヵ月ほどお世話になりました。その期間、この無線通信技術のレベルアップを図り、2017 年4月から研究開発した無線通信技術をコアに当社の営業がスタートしています。 社名のソナスは“ 礎を成す”という言葉に由来しており、「社会を支える基盤のような存在になりたい」という想いから名付けました。起業を決意した事業と現状の事業は、まったく違う分野になりますが、根本にある想いは変わりませんので、社名は変更しませんでした。 ホームページなどの会社案内で、設立から実際の営業開始まで2年程期間が空いているのは、このような経緯が理由になっています。 東京大学発のベンチャー企業であるソナス株式会社。大学所属時に開発したIoT 向けの無線通信技術をコアに、IoT市場の活性化を目指していく同社の概要と事業展開、技術やアプリケーションなどについて、代表取締役/CEO 大原 壮太郎 氏、取締役/CTO 鈴木 誠 氏のお二人にお話を伺った。代表取締役/ CEO大原 壮太郎 氏取締役/ CTO鈴木 誠 氏IoTを簡単/高品質に実現できる省電力マルチホップ無線通信技術~センシングソリューションを含めた提供で事業展開~ 御社の事業展開などについてお聞かせ ください。大原 : 先程も少しお話しましたが、当社の事業のコアとなるのは、元々大学で研究開発を行っていた無線通信技術で、この技術を使った応用も検討していました。その中で、国のプロジェクトである「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の社会インフラ維持管理のプロジェクトに携わり、センサネットワークといったIoTで橋梁に代表されるようなインフラの維持管理を目指す研究を行っていました。 社会インフラ維持管理には確かな需要があること、また本コア技術との相性が良いことから、当社もまずは土木や建築をターゲットに、事業をスタートさせています。ただ、我々の事業が目指すのは、この無線通信技術を多くの方々に使って頂き多様な業界での実用化に繋げるということです。そのため、現在は適用産業領域の拡大に注力しています。 我々の認識では、IoTが非常に注目されバズワード化している一方で、実際に様々な産業分野を見渡した時、IoT の恩恵にあずかっている分野はまだ極めて少ないです。その根本的な原因は、「無線通信の使用に専門性が必要となる」「要件にあった規格を選択することが困難」など無線通信の部分がボトルネックになっていると考えており、このボトルネックを解消できる可能性が当社の技術にはあります。 そういった事から、この無線通信技術を世界に発信し、多くの方々に使って頂くことで、IoT の恩恵をみなさんが受けられるような世界の実現を目標にしています。 御社のコアとなる無線通信技術につい てお聞かせください鈴木 : 当社のコア技術は、“ 誰でも本格IoT”をコンセプトにした省電力マルチホップ無線通信技術『UNISONet(ユニゾネット)』になります。 産業用IoT向けの無線通信はたくさんあり、最近ではLPWA(省電力広域無線)が流行っています。LPWAは親機と子機が直接つながっているスター型と呼ばれる形態で無線通信を行いますが、通信範囲と通信速度がトレードオフになってしまうという課題を抱えています。例えば、LPWAはWi-Fi 等と比べて100倍程度飛びますが、スピードは100 万分の1程度です。これでは送れるデータの制約が非常に強くなってしまいます。そのような中で、通信範囲と通信速度を両立させるマルチホップという技術があり、1つ1つの無線機の通信範囲は狭いのですが、それをバケツリレー的に運ぶことで通信範囲を広くしていき、通信速度もそれなりに維持していくことができるものです(図表1)。 このマルチホップは、昔から研究が続けられている技術ですが、現状ではそれほど普及しておらず、その理由としては安定化が難しいことが理由として挙げられます。今までの一般的なマルチホップは、バケツリレーするルートを決めるのですが、電波状況の変動などによりデータロスが発生するなど制御の難しさがあり、「ルーティングすること自体がネックになっているのでは」というのが我々の考えでした。 当社の『UNISONet』は、課題となるルーティングをまったく行わない形式になっており、まずデータ発信元が宛先を決めずにデータを送信し、電波の到達範囲にあるノードが受信します。ここからがユニークで、ルーティングを決めている場合はルート上にあるノードのみが転送を行いますが、『UNISONet』の場合はデータを受信したノードがすべて即座に転送を行い、この繰り返しで最終目的の宛先にデータを送ります(図表2)。 実は今まで、このような形式は一般的な無線の常識ではありえませんでした。それは、1つのノードに複数のノードから同じ時間で同じ周波数から送られると、普通は干渉を起こして受け取れないと考えられていたからです。しかし、2011 年に海外の論文で、複数ノードが同時に送信しても、「電波を同時に発生させてキレイに重ね合わせる」ことで、特定の条件下であれば干渉せず受信できること、またこの技術をフラッディングという通信パターンに適用することで、フラッディングを大幅に高速化できることが発表されました。フラッディングとは、1つのノードからネットワーク全体にパケットを転送する通信パターンです。 我々はこの発見はフラッディングだけにとどまらず、マルチホップ技術全体に大きな変革をもたらすと予見し、研究開発を開始しました。 そして、「どのような条件であれば干渉せずに動くのか」という解析まで実施するとともに、本現象を踏まえてセンサネットワーク技術全体を一から再構築しました。 『UNISONet』は、今ご説明した同時送信型のフソナス株式会社