ブックタイトルメカトロニクス8月号2017年

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概要

メカトロニクス8月号2017年

44 MECHATRONICS 2017.8 経済産業省は、2017年5月19日のニュースリリースで、「水銀に関する水俣条約」注1)の締約国数が我が国を含めて50ヵ国に達し、規定の発効要件が満たされたため、本条約が本年8月16日に発効することになったことを発表した1)。注1)水銀に関する水俣条約:The Minamata Convention on Mercury、「水銀水俣条約」、「水銀条約」あるいは「水俣条約」と略称されることがある。 日本として、同条約の実施を確保し、その他の必要な措置を講ずるための国内法である「水銀汚染防止法」の制定、及び関係法令の改正が行われていたが、水俣条約の発効を受け、一部を除き8月16日に施行されることとなる。 今回は、「水銀に関する水俣条約」についての関連情報を紹介する<図表1>1、2)。<図表1>環境省発行のパンフレット2)日本産業洗浄協議会名誉理事 相模環境リサーチセンター 所長 小田切 力「水銀に関する水俣条約」の発効~公害病発生から60有余年後の国際的合意~【第185回】■水俣病とは 水俣病は、熊本県水俣市の新日本窒素肥料(株)(1965年よりチッソ(株)に社名変更)の水俣工場から、水俣湾に排出された排水中のメチル水銀化合物に汚染された魚介類を食べることによって起こった中毒性の神経系疾患である。後に、新潟県鹿瀬町(現在の阿賀町)の昭和電工(株)の工場から阿賀野川に排出された工場排水からも、同一の疾患が多発した。 その主な症候としては、感覚障害、運動失調、求心性視野狭窄、聴力障害等が認められる。胎児性の水俣病は成人と異なった症状を示す場合がある。 熊本水俣病は1956年に、また新潟水俣病は1965年に、それぞれ公式に確認され、政府は1968年にそれぞれ公害病として認定した。いわゆる「四大公害病」である注2)。注2)四大公害病:熊本水俣病、新潟水俣病、富山イタイイタイ病、四日市ぜん息を指す。■「水銀に関する水俣条約」 「水銀に関する水俣条約」は、水銀の一次採掘から貿易、水銀添加製品や製造工程での水銀利用、大気への排出や水・土壌への放出、水銀廃棄物に至るまで、水銀が人の健康や環境に与えるリスクを低減するための包括的な規制を定める条約である。2013年10月に熊本県で開催された外交会議で、採択・署名が行われた。2017年5月18日付けで、締約国数が我が国を含めて50ヵ国に達し、規定の発効要件が満たされたため、本条約は2017年8月16日に発効することになった。■同条約策定の経緯 国連環境計画(UNEP)では、第25回管理理事会(2009年)において、国際的な水銀の管理に関して法的拘束力のある文書(条約)を制定するための政府間交渉を開始すること、そのための政府間交渉委員会(INC)注3)を設置して2013年までのとりまとめを目指すことに合意した。注3)その第1回会合は、“The fi rst Session of the IntergovernmentalNegotiating Committee on Mercury(INC1)として、2010年6月7日~11日に、ストックホルムで開催された。 政府間交渉は2010年に開始され、2013年1月に「政府間交渉委員会第5回会合」(INC5)において条約の条文案が合意された。2013年10月には、熊本県(熊本市および水俣市)で外交会議が開催され、「水銀に関する水俣条約」として条約の採択及び署名が行われた。■“ライフサイクル全体における水銀対策の推進” 「水銀に関する水俣条約」の発効が2017年の内に行われることを予想してからか、2016年度の環境白書は、特に“水銀対策”を大きく取り上げた。同白書におけるその年度の最重点課題は、地球温暖化対策と東日本大震災対策の2点であるが、それに続くいくつかの課題は、“第1部 総合的な施策等に関する報告、パート3 主な課題に関する取組の進展”のなかに、①2030アジェンダ、②森里川海、③自然循環と経済社会システム循環の調和、④PCB廃棄物処理、⑤水銀対策、の5項目の各章が挙げられている。 水銀対策は、“第5章 ライフサイクル全体における水銀対策の推進”と題して、1章(6ページ)を費やしてその問題点を解説しているので、その要約を以下に紹介する3)。(1)まえがき 多種多様な化学物質は、現代社会において私たちの生活に利便をもたらしているが、その一方で、人の健康や環境への影響が懸念されるものもある。化学物質は、その製造・輸入・加工から製品の使用、リサイクル、廃棄に至るライフサイクルの各過程で環境に排出される可能性があることから、人の健康や環境への影響が懸念される化学物質については、そのライフサイクルの各段階において、様々な対策手法を組み合わせた包括的なアプローチを戦略的に推進することが重要である。 2002年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(WSSD)において定められた実施計画においても、2020年までに化学物質の製造と使用による人の健康への著しい悪影響の最小化を達成するために、ライフサイクルの全体を通じて化学物質を適正に管理すべきことが示されている。 その考え方は、「持続可能な開発のための2030アジェンダにおける持続可能な開発目標」(SDGs)のターゲットにも引き継がれている。 本章では、人の健康や環境への悪影響が懸念される化学物質の一つである水銀について、包括的なアプローチの重要性を踏まえつつ、我が国が過去の経験を受けて、どのように「水銀に関する水俣条約」(以下「水俣条約」という。)の採択に向けて世界に働き掛けを行ってきたか、そして、同条約を受けて成立した国内の新しい法制度の概要及び世界全体の水銀汚染削減に向けた我が国の国際的な取組について紹介する。(2)第1節 水銀のリスク 国連環境計画(UNEP)の報告によれば、水銀は火山活動、岩石の風化等の自然現象に加え、化石燃料(特に石炭)の燃焼、零細及び小規模な金の採掘、塩化ビニル・苛性ソーダの製造、歯科充填や廃棄物の焼却等の様々な人間の活動によって排出されている。 水銀は、一度環境に排出されると分解されることなく自然界を循環するという環境残留性及び長距離移動性を有するため、上述の自然現象及び人間の活動に加え、土壌、水域及び植物に蓄積されたものからの再排出等によっても環境に排出される。 再排出された水銀の最初の排出源を確実に特定することはできないが、UNEPが2013年に発行した報告書「世界水銀アセスメント2013」4)によれば、約200年前の産業革命以降、人為的排出が著しく増大していることを示すデータがあることから、再排出された水銀の大部分は人間の活動による人為的排出に起因することが示唆される<図表2>。 このため、人為的な水銀の排出源及び排出量を削減することは、環境中を循環する水銀量を削減するために極めて重要である。他方で、水銀は電池や蛍光灯等、私たちが日常使用している製品に幅広く使用されている。環境に排出された水銀は、やがて生物の体内に取り込まれ、悪影響を与える可能性がある。 我が国では、1956年に工場から排出された水銀を原因とする水俣病が公式確認されたのち、水銀による深刻な健康被害と自然環境の破壊の経験を教訓に、国、地方公共団体、産業界、市民団体及び住民が一体となって水銀対策に取り組んできた。水銀を使用する製造工程について、例えば苛性ソーダ製造工程における水銀を用いない製法への転換や、製品中の水銀使用の代替・削減等の取組を進めてきた結果、我が国の水銀使用量は大きく減少してきた。他方、冒頭で述べたように、世界的には現在でも様々な用途で使用され続けている。 水銀は、環境中で様々な化学形態(単体又は化合物)で存在し、その形態により物理化学的性質や毒性が異なる。生体に取り込まれやすく毒性の強いメチル水銀(有機水銀の一種)は、特に海洋の上層部でバクテリアの働き等により生成され、食物連鎖を通じた生物濃縮等によって大型の海洋動物等の体内に高濃度に蓄積されると考えられている。 人類もその魚介類等を喫食することにより、体内に水銀が取り込まれることになる。例えば、人為的排出源から離れた北極圏等の地域に居住し、魚介類等を多食する集団において高濃度の水銀が検出されている。 メチル水銀は、特に人の発達途上(胎児、新生児、小<図表2>UNEPの報告書4)