ブックタイトルメカトロニクス3月号2017年

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メカトロニクス3月号2017年

44 MECHATRONICS 2017.3日本産業洗浄協議会名誉理事 相模環境リサーチセンター 所長 小田切 力森林が果たす地球環境上の役割~(3)「REDD」および「REDD+」~【第180回】■「REDD」の背景(1)国連環境開発会議(1992年、リオデジャネイロ) 1992年にリオデジャネイロ(ブラジル)で「国連環境開発会議」(UNCED)注1)が開催された。注1)国連環境開発会議:United Nations Conference onEnvironment and Development、UNCED。別名「地球サミット」、「地球環境サミット」。 UNCEDには、それに先立って1987年に「環境と開発に関する世界委員会」注2)が提唱した「持続可能な開発(Sustainable Development)」の理念を実現するため、国連に加盟する180ヵ国が参加した。注2)環境と開発に関する世界委員会:World Commission onEnvironment and Development、WCED。 その会議の具体的な成果として以下の事項が合意に達し、その後の環境問題に関する国際討議の指針となった。①「環境と開発に関するリオ宣言」の採択②持続可能な開発のための人類の行動計画「アジェンダ21」の採択③「森林原則声明」の採択④「気候変動枠組条約」の署名開始⑤「生物多様性条約」の署名開始 「森林原則声明」は、森林問題について初めての世界的合意であった。当初は熱帯林保全のための「世界森林条約」が目標であったが、木材が主要な経済資源である途上国などの反対から、熱帯林なども含めた法的拘束力のない原則声明となった。  モントリオール(カナダ)で2005年に開催された「気候変動枠組条約の第11回締約国会議」(COP11)注3)では、京都議定書上では仕組みとして規定されていない「途上国における森林減少・劣化からの排出の削減」(Reducing Emissions from Deforestationand forest Degradation in developingcountries、「REDD」と略称)に取り組む必要がある、という提案がなされた。このテーマが、ローマ字4文字の略称「REDD」で呼ばれることとなり、森林問題を取り上げる用語として定着した。注3)「気候変動枠組条約の締約国会議」の呼称については、これ以降“COP11(開催年、開催地)”のように記載する。 その後「COP」 に対して科学的・技術的な助言を行う組織が気候変動枠組条約に基いて設置され、森林問題についても2年間の検討を行った注4)。注4)この組織は「科学的、技術的な助言に関する補助機関」を指す。(Subsidiary Body for Scientifi c and Technological Advice :SBSTA) また、2006年10月に発表された「スターン・レビュー」注5)においても、“森林減少を減らす政策の方が、排出を抑制するという目的からすると、新規植林や再植林に比べて、より生産的である”との指摘があったことから、「REDD」の重要性が国際的に認識されるようになった。注5)スターン・レビュー:Stern Review。経済学者ニコラス・スターン(Nicholas Stern)が英国政府の依頼でまとめた報告書(題名は(「The Economics of Climate Change」)。気候変動問題の経済影響に関する報告書で2006年10月に公表された。気候変動対応策の枠組みには、国内排出量取引、テクノロジー協力体制、森林伐採を減らすための対応策、順応化、が含まれるべきであるとしている。 さらに、「COP13」(2007 年、バリ島(インドネシア))において採択された「バリ行動計画」でも、「REDD」が2013年以降のポスト京都の枠組みにおける主要な検討要素であるとの確認がなされていた。 「COP15」(2009年、コペンハーゲン(デンマーク))において採択された「コペンハーゲン合意」注6)では、「REDD」の取り組みに、さらに森林保全・持続可能な森林経営・炭素吸収の強化を加えた「REDD+」(「レッド・プラス」もしくは「REDDプラス」)への対応を推進するための枠組み構築の必要性が強調された。注6)コペンハーゲン合意:Copenhagen accord /Copenhagenagreement 「REDDプラス」への取り組みは、途上国における排出の削減ばかりでなく、森林や生物多様性の保全、地域経済の発展等への貢献の面でも、大いに期待されている。■「REDD」および「REDD +」(1)「REDD」について 途上国における森林の破壊(減少)や森林劣化からのCO2の排出は、人為起源の温室効果ガス排出の約2割を占めている。この森林破壊・劣化を回避することでCO2の排出を削減することは地球規模での温室効果ガス削減に向けた緊急の課題である。この問題あるいはプロジェクトが、「REDD」(ReducingEmissions from Deforestation and forestDegradation in developing countries)と呼ばれる由縁である(日本語では、「途上国における森林減少・劣化からの温室効果ガス排出の削減」と訳され、「レッド」と呼称されている5)。 これによって排出削減できた炭素量は、再生可能なエネルギー源を使用することで発生する炭素削減クレジット、あるいはエネルギー効率の改善で発生する炭素削減クレジットと同じとみることもでき、カーボンオフセット注7)などに利用することも考えられている。注7)カーボンオフセット:Carbon Off set。日常生活や企業活動等によるCO2の排出量のうち、削減が困難な量の全部または一部を、他の場所で実現したCO2の排出削減や森林の吸収等をもって埋め合わせ(オフセット)することをいう10)。 このタイプの排出削減プロジェクトは生態系保護に役立つとともに、生態系が提供する機能の対価を支払うこと(PES)注8)を促進するものとの評価もある。注8)PES:Payment for Ecosystem Services(生態系サービスへの支払い)。生態系にはエネルギーや物質の循環、生物の生物活動を維持するといった多様な機能がある。生態系が持つ機能のうち、人間が受ける恩恵を総称して生態系サービス(Ecological Service)という。生態系サービスの恩恵を受けている人々(受益者)に対して、サービスの内容や規模に応じた対価を支払ってもらう仕組みのことを生態系サービスへの支払制度という。例えば、上流部の森林に水源かん養や水質浄化という生態系サービスを提供してもらっている人々がこれを維持するための管理費用を管理者に支払う場合がこれに当たる。 2006年の「スターン・レビュー」でも、世界の温室効果ガス排出量(2000年)の18%が土地利用変化によるもので、その原因は途上国における森林の過剰伐採や農地への土地利用転換だとしている。また、その排出量は運輸部門よりも多く、森林減少の防止が地球温暖化防止対策における費用対効果の高い方法であるという指摘がある。 「REDD」が初めてCOPの会議で取り上げられたのは、「COP11」(2005 年、モントリオール)であった。「COP13」(2007 年、バリ島)では締約国が「REDD」の取組を支援するとともに、CDMの方法論に関する議論を開始することが決められた。その後、「COP15」(2009年、コペンハーゲン)の「コペンハーゲン合意」では、森林減少・劣化に加えて、森林保全・持続可能な森林経営・炭素吸収の強化を取り上げた「REDD+」への対応を推進するための枠組みを構築する必要性が強調された。(2)「REDD+」について8) 「REDD」は、“途上国における森林減少・森林劣化からの温室効果ガス排出の削減”であったが、「REDD+」の場合は、「REDDプラス」または「レッド・プラス」と略称をあてるようになり、解説を含めて「途上国における森林減少・森林劣化を抑制する努力にインセンティブを付与する気候変動緩和策」と称されている。 「レッド・プラス」には、追加の緩和策を含める場合 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次報告書(2007年)では、森林問題が強調され、途上国における森林減少・劣化に由来する二酸化炭素(以下CO2)の排出は人為起源の排出量全体の約2割を占めており、その抑制が地球規模での温室効果ガス削減のための重要な課題であることが指摘された。 今回は、森林問題の第3回として、最近特に話題となっている「REDD」および「REDD+」について、その誕生からの経緯と周辺のトピックスを紹介する1~4)。<図表1>「森林が果たす地球環境上の役割」の前回までの目次構成<第178回>(1)過去の森林問題の経緯をたどる■「2030アジェンダ」における「森林問題」(1)SDGsの17のゴール(2)森林問題が含まれる「ゴール15」(3)「ゴール15のターゲット」■パリ協定における森林問題■森林問題に関連する論議の経緯「森林問題」の紹介事例(1)地球における「森林」の誕生と成長の意味(2)「地球白書」が取り上げた森林問題<第179回>(2)森林問題にかかわる  ブループラネット賞等のトピックス(2)「地球白書」が取り上げた森林問題(続)■地球環境国際賞としての ブループラネット賞の存在価値(1)ブループラネット賞とは(2)ブループラネット賞の趣旨■森林問題に深く関わるブループラネット賞・1994年度(第3回)~2016年度(第25回)の表彰(7件)■森林問題に関連するその他のトピックス(1)ジャーナリストが現場取材で追求した森林問題(2)環境社会検定試験と森林問題(3)ショスタコーヴィチ作曲「オラトリオ・森の歌」