ブックタイトルメカトロニクス7月号2016年

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メカトロニクス7月号2016年

42 MECHATRONICS 2016.7日本産業洗浄協議会専務理事 相模環境リサーチセンター 所長 小田切 力障害を持つ人への人間社会の配慮~国際連合と我が国の対応~【第172回】■“障害者問題”に関係する用語 障害者問題に関係する用語は、以下のように使われている。(1)障害者 障害者基本法の第2条に以下の定義がある。 “身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)、その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する)がある人達の場合であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある人たちのことをいう。”(2)身体障害 先天的あるいは後天的な理由で、身体機能の一部に障害を生じている状態、あるいはそのような障害自体のことをいう。(3)知的障害 法令上に定まった知的障害の定義はないようである。福祉施策の対象者としての知的障害について定義する法令は存在するが、その法令の目的に応じた定義がなされている。客観的基準を示す法令にあっては、発達期(おおむね18歳未満)において遅滞注1)が生じること、遅滞が明らかであること、遅滞により適応行動が困難であることの3つを要件とするものが多い。注1)遅滞:知的機能が全般的に平均よりも低く、環境に適応することが困難な状態を示す。日常生活において何らかの援助や介助が必要である。(4)精神障害 「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」において、“精神分裂病、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者”と定義されている。(5)発達障害 情緒面、運動面に発達の問題があり、日常生活に支障をきたしており、社会適応のために支援が必要な状態をいう3)。■国際連合が取り上げている “障害を持つ人々”の問題(1)国際連合が取り上げた“差別との闘い” 国際連合では、“障害を持つ人々”の問題を、人権に係わる“差別との闘い”として、以下の項目の中に含めている。①アパルトヘイト、②人種主義、③女性の権利、④子どもの権利、⑤少数者の権利、⑥先住民族、⑦障害を持つ人々、⑧移住労働者。(2)国際連合が“障害を持つ人々”の問題に取り組む姿勢 冒頭で引用した国際連合の資料では、引き続いて以下のように、このテーマ“障害を持つ人々の問題”を解説している1)。 “国連はその創設期から障害を持つ人々の地位を向上させ、彼らの生活を改善することに努めてきた。障害を持つ人々の福祉と権利に対する国連の関心は、すべての人間の人権、基本的自由、平等に基づく国連創設の原則に由来する。”(3)国連の本問題に関する活動経緯 上掲の資料は、国連の本問題に関する活動経緯を以下のように紹介している。・1970年代:障害を持つ人々の人権の概念が国際的に広く受け入れられるようになった。・1971年:「精神薄弱者の権利に関する宣言」(Declaration on the Rights of Mentally RetardedPersons )を総会で採択。・1975年:「障害者の権利に関する宣言」(Declaration on the Rights of MentallyDisabled Persons)を採択。・1981年:「国際障害者年」(International Year ofDisabled Persons )。・1981年:「障害者に関する世界行動計画」(WorldProgramme of Action Concerning DisabledPersons)を国連総会で採択。・1983年~1992年:「国連障害者の10年」(UnitedNations Decade of Disabled Persons)。・1991年:「精神病者の保護と精神保健ケアの改善のための原則」(Principles for the Protection ofPersons with Mental Illness and the Improvementof Health Care)。・1993 年:「障害者の機会均等に関する標準規則」の採択(Standard Rules on the Equalization ofOpportunities for Persons with Disabilities)。精神障害を持つ人々を保護する新しい基準として国連総会で採択された。・2006年:「障害者の権利に関する条約」の採択(United Nations Convention on the Rights ofPersons with Disabilities、(UN)CRPD、「(国連)障害者権利条約」と略)」)。■「障害者権利条約」について4) 人間の社会生活の中に存在する“差別”との闘いとして、障害者問題は国際連合の歴史のなかでも30年を超す長期間の経緯が存在する。(1)条約作成に至る経緯 2001年12月の国連総会で、「障害者の権利及び尊厳を保護・促進するための包括的・総合的な国際条約」決議が採択され、国際条約を起草するための「アドホック委員会」を設置することが決まった。(2)条約の起草 条約の起草交渉は、政府間で行われることが通例だが、このアドホック委員会では、障害者団体は傍聴できるだけでなく、発言する機会も設けられた。それは、障害者の間で使われているスローガン「Nothing AboutUs Without Us(私たちのことを、私たち抜きに決めないで)」に表れている、障害者が自身に関わる問題に主体的に関与するとの考え方を反映し、名実ともに障害者のための条約を作成しようという、国際社会の総意の表れであった。(3)日本代表団の協力 日本の政府代表団は、障害当事者を顧問に迎え、起草交渉に積極的に関与したほか、日本から延べ200人にのぼる障害者団体の関係者が国連本部(ニューヨーク)に足を運び、実際にアドホック委員会を傍聴した。(4)本条約の成立 本条約は、2002年7月以降、アドホック委員会による8回にわたる条約案の検討を経て、2006年12月13日、第61回国連総会本会議で採択された。条約は2008年5月に発効。日本は、2007年9月に条約に署名、2014年1月に批准、同年2月に我が国でも発効した。2015年3月31日現在、署名した国・地域・機関数は153。本条約は、障害者に関する最初の包括的かつ総合的な人権条約で、また、地域統合機関によって署名のために開放された最初の人権条約でもある。(5)同条約締結前の日本国内法の整備 日本では、同条約の締結(批准)に先立って、国内の障害者当事者等から、条約の締結に先立ち国内法の整備、障害者に関する制度の改革を進めるべきとの意見が寄せられた。政府は、これらの意見も踏まえ、以下のような法の整備と制度の改革を行った。・2009年12月:「障害者制度改革推進本部」の設置(内閣総理大臣を本部長、全閣僚をメンバーとする)。・2011年8月:「障害者基本法」の改正。・2012年6月:「障害者総合支援法」の成立。・2013年6月:「障害者差別解消法」の成立。・2013年6月:「障害者雇用促進法」の改正。(6)「障害者差別解消法」について 「障害者差別解消法」(「障害を理由とする差別の解消<写真1>内閣府リーフレット「障害者差別解消法」表紙2) 前回は“高齢化社会にまつわる諸問題と環境問題の関係”について触れたが、その視点を人間同士の共存状態における社会的問題に広げると、“人間が一生のうちで避けることのできない高齢化という宿命の持つ問題”である。 高齢社会の問題は、いわゆる“障害を持つ人々”の問題と類似して、人間の社会活動に付随し、地球規模で考えなければならない未解決の問題を多数含んでいる。国際連合の資料によると、“およそ6億5,000万人が、何らかの形の身体的、精神的もしくは感覚的な障害に苦しんでいる。これは世界人口のおよそ10%を占める数字で、そのうちの80%の人々が開発途上国に住んでいる”とのことである1)。 “障害者問題”の最近の話題は2つあり、1つは国際連合による「障害者権利条約」を日本も2014 年1月に批准し、同年2月に発効したことである。もう1つは、日本が同条約を受け入れるための準備として、「障害者差別解消法」を2013年6月に制定したが、同法が2016年4月1日に施行されたことである<写真1>。 今回は、高齢者の問題も含まれるいわゆる“障害を持つ人々の問題”に関するこのトピックスを紹介し、地球規模の環境問題を考えるときには宿命的に介在する人間の存在自体の在り方を見直す機会としたい。