メカトロニクス2月2013年

メカトロニクス2月2013年 page 50/60

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50 MECHATRONICS 2013.2日本産業洗浄協議会専務理事 相模環境リサーチセンター 所長 小田切 力里地里山について(1)~生態系と生物多様性とのかかわり~【第131回】 “里地里山”という言葉が地球環境に関する話....

50 MECHATRONICS 2013.2日本産業洗浄協議会専務理事 相模環境リサーチセンター 所長 小田切 力里地里山について(1)~生態系と生物多様性とのかかわり~【第131回】 “里地里山”という言葉が地球環境に関する話題の一つとして使われて久しいが、最近その“里地里山”の情報を2件入手した。一つは、環境省が「平成24年度里地里山保全・活用検討会議」の第1回会合を2012年11月28日に開催したことである。もう一つは、大都市に隣接した広大な里地里山地区で、大規模な宅地造成計画が進行中で、近傍の住民がその緑地の保護に関する運動を起こしていることである。 “里地里山”という用語が、国際的にも“satoyama”として使用されるようになり、この言葉の源泉が、日本特有の自然観にも通じているようである。今回は、この“里地里山”の言葉で表されている諸問題を調べる手がかりとして、関係情報を紹介するが、同時に幅広く参考文献を紹介する。■環境問題における“里地里山”の位置づけ 商工会議所が主催する検定制度に「環境社会検定試験」(「ECO検定」と略)がある。その狙いは“環境と経済を両立させた「持続可能な社会」の推進に向けて、環境に対する幅広い知識を身につけるための検定”であるとされ、2006年創設以来現在までに合格者が約15万人生まれているとのことである。同制度を受験するための参考書として「ECO検定公式テキスト」が発行され、同書では、総数約1,000語の環境関連用語を、5つの章、86個の小項目に分けて解説している1)。 その中に“里地里山”の説明が含まれているが“里地里山”は、その中で“第2章 地球人としてのわたしたち①わたしたちの地球と自然環境( 1-7)いま、地球と自然環境に何が起こっているか”の部分で取りあげられ、以下の用語解説と、本文での説明が以下のように記されている。 “(用語解説)里地里山:奥山と都市の中間に位置する地域のこと。集落と集落を取り巻く二次林(雑木林)。集落と混在する農地、ため池、草原などで構成される地域概念。身近な自然と触れ合う場として、また動植物の生育・生息の場として、生物多様性保全の観点からも重要性が注目されている。しかし、近年では、農山村の過疎化、都市近郊の開発により質の低下や消失の危機にあり、政府の生物多様性国家戦略でも「里地里山対策」を重点課題としている。” “(本文)近年、農山漁村の風景も変わってしまいました。戦後の高度経済成長とともに、宅地および農地・河川整備などによる開発や、地域の過疎化、高齢化などを背景として、里地里山の荒廃が問題となっています。気がついてみると、春の小川のメダカやドジョウ、田んぼのカエルが減る一方、外来種が異常に繁殖しています。また、かってはカブトムシが採れた裏山の林自体がなくなってしまうこともあります。”■“里地里山”について(1)“里地里山”という言葉 “里”という漢字は、本来“人家のある所”、“ひとざと”という意味で使われていると通常の国語辞典には記されており、前節に現れた“奥山”は、“人里から離れた奥深い所にある山。深山。”とある。 日本自然保護協会は、里地里山を以下のように定義している2)。 “里地里山(里やま)とは、日本人が長い歳月をかけて水田耕作や林業・放牧といった伝統的な自然の利用を続けてきたことで形成された環境です。 里地里山には、二次林や水田、ため池、草原といった多様な環境がモザイク状に存在し、そのため多様な動植物の生育・生息の場となっています。また里地里山は、薪炭林のカタクリや、カヤ原のカヤネズミ、水田のメダカやゲンゴロウ、森と草地の両方を利用するサシバなど、人間の伝統的な営みに依存した生物が多く見られる場所でもあります。 しかし一方で、宅地開発や水質汚染などの人間活動、伝統的な営みの放棄、外来種の侵入といった要因により、里地里山の生物多様性は近年急速に劣化しています。最近の研究では、我が国の絶滅危惧種のうち約半数がこの里地里山に集中していることが明らかになっています。” (財)イオングループ環境財団と里地ネットワークが行っている里地里山保全活動では、里地里山に関係する地域を以下のように5つに分類しているとのことである7)。①遥かな山:もののけ姫でいう獅子森。神の宿る聖なる山。屋久島や白神山地の一部の人以外は、忘れ去ってしまった畏怖や敬意の人が立ち入ることが許されない神聖な山で、大型野生動物のサンクチュアリーでもある。②奥山:さまざまな神が宿る信仰の地。山の神、水の神、地の神の山で、汚すことが許されない山である。人にとっては、水源や治山の山で、野生動物の繁殖の場でもある。③山:原生林や自然林、山里の人々が自然の恵みを受けて暮らしてきた狩猟採取の山。現在ここは手入れされない人工林になっている。④里山:薪炭林と落ち葉かきの山。縄文期以降、農耕と一体となって使われてきた。⑤里地:畑や水田、家屋敷があるところ。この里地と里山は、人が完全に管理することでできあがった世界に類を見ない程、複雑で多様な自然環境が維持されてきた空間である。現在は過疎化と近代農業の発展で、ここ50年この環境は大きく変わった。(2)“里山”という用語の普及 かつて森林生態学者の四手井綱英氏の訃報が新聞に掲載された時、“里山の概念の普及に貢献した”もしくは“里山という用語を作りだした”という紹介があった注1)。注1) 四手井 綱英:(しでいつなひで)森林生態学者、京都大学院名誉教授、京都府立大学院名誉教授、1911年11月30日京都府生まれ、2009年11月30日没。 “里山”という用語は同氏の造語であるという紹介もあるが、この語は江戸時代にすでに使用されていたという指摘もある9,29,30)。 いずれにしても、“里山”が各種辞典に掲載される時期が不揃いであり、時期的に掲載されたり、抹消されたりすることが多いので、時事用語的な色彩が強い。四手井氏が“里地里山”が地球環境と結びついて生態学的に意味が深いことをした功績は大きいので、同氏が“里山”の再発見者として評価する指摘もある9)。 時事用語の解説で、年鑑のように毎年発行される用語事典は、1948年創刊の「現代用語の基礎知識」が、ある用語の過去の経緯を比較する場合に便利である。 里地(あるいは里山)の説明文は過去に4回変わっており、掲載中止の時期もあった。その説明は、大きな出来事と関連づけて考えられていることが以下の例で分かる6) 注2)。注2) 2000年以前の版は確認していない。・2001年版:「里地:日本国内には植林のように人が働きかけることで持続する二次的自然が多く存在し、それらを通じて人と生物がさまざまな接触をもってきた。里地は、大自然と大都会の中間にあり、身近な雑木林や田んぼといった日本人の原風景的な「里山」に、集落や商工業施設なども含めた地域を指す。もともと一部研究者や市民らの間で使われていた言葉だが、1994年12月に国が策定した「環境基本計画」で明確な定義が行われ、国土を山地、里地、平地、沿岸地域の四つに区分した。環境庁(環境省)が1996年にまとめた「里地自然地域等自然環境保全調査」によると、里地は国土面積の45%を占め、全人口の15%がそこで生活し、農耕地の55%を含んでいる。現在、里地の多くは住民の高齢化や地場産業の衰退にさらされ、また自然環境の荒廃が深刻化しつつある。日本自然保護協会では「里山の自然しらべ」と題する独自の調査マニュアルを作って全国に呼びかけ、その結果をまとめた「里やま地図」を1998年に完成させた。」・2002~2007年:「里山:たき木や肥料などの採取地となってきた平地や低山の林のこと。地形的に山とはかぎらないため、里地と呼ばれることもある。広い意味では、身近な雑木林や田んぼといった日本人の原風景、または暮らしと関わりが深い身近な自然のことをさす。里山で定期的に木を切ったり草刈りをすると雑木林が維持され、林床に種々の野草が育つ。このように里山に人手が加わることで多用な生物が生活できる環境が保たれている。そこで、環境省や自治体、環境NGOなど、官民あげて里山保全に取り組み始めた。」・2008年版~2010年版:掲載なし。・2011年版:「里山ネットワーク:世界各地の里山(SATOYAMA)をつなぐため、日本人が立ち上げ呼びかける活動。日本の里山のように、生態系の回復が追いつく範囲で人が自然を活用する事例を集め、自然との共生の好例として世界に発信する。」・2012 年版~2013 年版:「里山/SATOYAMA:2010年、愛知県で行われた「生物多様性条約会議」に合わせて開催された「国連地球生きもの会議」で、日本に広く存在していた里山が、天然の森以上に生物相が多様で、人々の暮らしと結び付く、生物多様性と自然と共生するキーワードとして紹介された。里山は薪炭や飼料、堆肥として使うための人々の暮らしに近い場所の森を指し、木材として利用する森は遠山と呼ばれた。里山は当たり前のものであったため、特に保全されることもなかったが、宮崎駿の「となりのトトロ」の森のモデルの一部として狭山丘陵が紹介され、市民の保全活動に所沢市と埼玉県が協力して保全された。」(3)“里地里山”の英語表現 “里地里山”の英語訳には定まったものがないよう<写真1>「SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ」のロゴ51)