メカトロニクス8月号2012年

メカトロニクス8月号2012年 page 51/60

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MECHATRONICS 2012.8 51キー・マウンテン研究所理事長兼チィーフ・サイエンティスト(第16 回)・ジーン・E・ライケンズ博士(Gene E.Likens):生態系研究所理事長(第12 回)・グロ・ハルレム・ブルントラント博士....

MECHATRONICS 2012.8 51キー・マウンテン研究所理事長兼チィーフ・サイエンティスト(第16 回)・ジーン・E・ライケンズ博士(Gene E.Likens):生態系研究所理事長(第12 回)・グロ・ハルレム・ブルントラント博士(Gro HarlemBrundtland):元ノルウェー首相/WHO 名誉事務局長(第13 回)・スーザン・ソロモン博士(Susan Solomon):米国海洋大気庁高層大気研究所上席研究員(第13 回)・M.S. スワミナサン博士(M.S.Swaminathan):M.S. スワミナサン研究財団(第5 回)■ 12 箇条のキー・メッセージ この共同論文は、<表1 >の目次にあるような構成で、英文版では、“第1 部 統合報告書(SynthesisReport)”(約26 ページ)に、“第2 部 各受賞者からの論文(Indivivual Contributors)”(約143 ページ)を加えると170 ページを超える大部なものである1)。その要約文は、同報告書の「ExecutiveSummary」5)として(日本語版は「12 箇条のキー・メッセージ」6))同時に発表されている。以下はその全文である。① 私たちには夢があります。公平で貧困のない世界、人権を尊び、貧困や自然資源に対してより一層高い倫理感をもって行動する世界、気候変動や生物多様性の損失、社会的不公正という諸問題への取り組みを成功させ、持続可能な環境・社会・経済を実現できる世界…この世界を実現するのは叶わぬ夢ではありません。しかし従来のシステムには欠陥があり、これ迄と同じ道を辿れば夢を実現するのは不可能なのです。② 人口の規模と増加、この問題に伴う消費形態こそ、我々が直面する環境悪化と社会問題の決定的な要因です。人口問題は教育と女性の地位向上によって早急に解決すべき課題です。具体的には、女性の雇用促進、所有権や相続権の向上、子供と老人の医療、現代的な避妊法の普及等に早急に取り組むことが重要です。③ 生産・消費と環境破壊の連動性を喫緊に断ち切る必要があります。確かに、これは、世界的な貧困問題の解決に資するかもしれない私たちの物質的生活水準を、一定期間、危険に晒すリスクをはらんでいます。しかし、地球上の天然資源には限界があり、かつその基盤は脆弱で、結局のところ、無限に物質的な成長を続けることはできないのです。ところが現実には、エネルギーや輸送、農業分野への補助金によって、本来、持続不可能な成長が促されています。したがって、まず環境悪化に繋がるこの種の補助金を撤廃すべきです。また、環境・社会コストに関わる外部コストを内部化すると共に、意思決定の際には、生態系が人類に提供するモノとサービスの市場価値並びに市場に現れない価値を考慮に入れる必要があります。④ 我々がこれまでと同じ発展の道筋をたどることで、世界が直面する環境、社会、経済における巨大なリスクは、それぞれの問題の核心を捉えないと、将来、その処理が一層難しくなります。たとえば、各国政府は、経済活動の尺度として利用している国内総生産(GDP)には物差しとして限界があることを認識し、それに取って代わり、経済、環境そして社会の各次元を統合し豊かさの指標となる5 つの資本、すなわち、1)金融資本、2)自然資本、3)人的資本、4)法整備等の社会資本、5)インフラ、製品、設備等の製造物資本を物差しとして測ることでGDP を補完する必要があります。貧困層にとっても必要な天然資源が入手可能となるように、富裕層のみを利することが多い補助金ではなく、環境税を導入し補助金の撤廃を推進すべきです。⑤ 化石燃料への依存度が高い現在のエネルギー・システムには、入手が容易な物的資源の枯渇、燃料の安定確保、健康被害と環境悪化といった我々が今日直面する、多くの問題があります。クリーンエネルギーを利用したサービスを誰もが享受できる環境は、貧困層にとって極めて重要です。さらに低炭素経済への移行には、エネルギー使用効率、環境にやさしい再生可能エネルギー、炭素の回収・貯留の分野等における急速な技術の発展が求められます。低炭素経済への移行が遅れるほど、私たちは高炭素エネルギー・システムにしっかりと組み込まれ、その結果、インフラを含め生態系や社会経済システムへの環境ダメージを増大させることになるのです。⑥ 温室効果ガスの排出は、将来の繁栄を脅かす最大脅威の一つです。世界全体で見た場合、温室効果ガスの総排出量(フロー)は、二酸化炭素(CO2)換算で年間約500 億トンに達しており、今なお急激に増加し続けています。陸上生態系や海上生態系では、世界が一年間に排出する温室効果ガスを全て吸収することができないため、大気中に排出された温室効果ガスの濃度(ストック)は、現在、CO2 換算で約445ppm へ上昇しており、年間約2.5ppm ずつ上昇し続けています。このように、我々は現在、フローおよびストックの両面において問題に直面しています。温室効果ガス排出量を削減するための強力な対策が講じられなければ、大気中の濃度は、今世紀中に、少なくとも300ppm 上昇し、今世紀末あるいは来世紀初頭には約750ppm 以上に達する可能性があります。世界各国が約束している削減努力では、五分五分の確率で地球の気温が最低3 ℃上昇する恐れがあるのです。これは、気温としては地球上で過去約300 万年、経験したことのないものです。また、3 ℃どころか気温が5 ℃上昇する深刻なリスクも否めません。5 ℃の上昇となると、地球上で過去約3000万年、経験したことのない気温となります。しかし現在の科学が、温室効果ガスの排出から濃度、気温上昇、その結果としての気候変動へのつながりやそのインパクトをすべて解明しているわけではなく、これは人類に課せられた膨大なリスク管理の問題であり、大規模な市民の行動にかかっていると言えます。⑦ 生物多様性は、極めて重要な社会的、経済的、文化的、精神的、科学的な価値を持ち、それを保護することは人類の生存にとって大変重要です。6500 万年の歴史上、類を見ないほど急速に進んだ生物多様性の損失が人類の暮らしを支える生態系サービスの供給を危険に晒しています。国連の提唱によって2001 年から2005 年にかけて地球規模で行われた生態系の環境アセスメント「ミレニアム生態系評価」によると、調査対象の24 の生態系サービスのうち15 が減少し、4 つが改善、残る5 つは地域によって改善や減少傾向にあると評価されました。生物多様性を保護し、持続可能な社会を実現するためには、対策を大幅に強化するとともに、社会、政治、経済の課題を統合する必要があります。さらに生物多様性と生態系サービスを評価し、真の意味での「グリーン経済」の基盤として価値のある市場を創出することが必要です。⑧ 私たちが、政府や企業、そして社会を通して係わる、地域、国家、そして世界レベルでの意思決定システムには、重大な欠陥があります。意思決定に係る規定や制度は利害関係者に左右され、各利害関係者の意思決定過程に対するそれぞれの関わり方は全く異なります。統治方法を効果的に改革するには、権力者の責任を問える透明性のある体制をさまざまなレベルで確立することが肝要です。地域レベルでは、公聴会や社会監査が社会の中心から取り残された人々の声を表に出すことができます。国レベルでは、議会やマスコミによる監視が重要です。世界的には、共通の目標を達成するための手段について、より良い合意形成・実行方法を探らなければなりません。さらに統治上の欠陥が起こるのは、意思決定が分野別に行われ、環境、社会、経済それぞれの次元の事柄が、個々の競合する部門により対策が採られているためです。⑨ 政策決定者は、エネルギー、食料、水、自然資源、財政、統治等の分野における草の根レベルで進行する活動や知識から学ぶ必要があります。特に農村地域では、この資源を管理、統制、所有しているのは地域社会なので、草の根活動から学ぶことが重要です。この課題に取り組むには、トップダウンとボトムアップ方式を互いに補完しながら、草の根レベルの活動を拡大することが重要です。また、すべての地域に共通な持続可能な発展に取り組む地域協力を育てることによって、世界的協力の改善も期待できます。⑩ 企業や政府は、優秀な政策決定者を確保・増強するために、効果的な研修プログラムを実施すべきです。意思決定者は、持続可能という制約内でプログラムと政策を統合する手法を学ぶとともに、その中からビジネスを理解し、持続可能という目標に向かって戦略的に行動していくスキルを修得することが大切です。⑪ 以上の課題すべてに共通して必要なのは、教育、研究、知識の評価に対する投資を増強することです。⑫ 冒頭に掲げた夢を達成するには、直ちに行動を起こすことです。何故なら、社会・経済体制はすぐに停止できない慣性力がある上、気候変動や生物多様性の損失がもたらす悪影響の回復には何世紀もかかるか、あるいは二度と修復不能だからです。行動すべきは自明の理ですが、現在の科学の不確実性を考えると、私たちは途方もない規模のリスク管理という問題に直面していることになります。今、対応を怠れば、私たちや将来の世代を衰退させることになります。(2012.6.18 記)<参考資料>1)The Blue Planet Prize laureates:Environment andDevelopment Challenges:The Imperative to Act2)(参考資料1)の日本語訳ブループラネット賞歴代受賞者共同論文:「環境と開発への課題:緊急に成すべき行動」公益財団法人旭硝子財団(2012.2.20)3)旭硝子財団プレスリリース:「ブループラネット賞歴代受賞者が持続可能な開発を実現するために抜本的転換を要請」(2012.2.10)4)旭硝子財団プレスリリース:「ブループラネット賞歴代受賞者が共同論文環境基本計画(UNEP)本会議で共同論文を発表」(2012.2.19)5)The Blue Planet Prize Laureates:「Environmentand Development Challenges : The Imperativeto Act = Executive Summary = 」The Asahi lassFoundation(2012.2.20)6)(参考資料6)の日本語訳 ブループラネット賞歴代受賞者共同論文:「環境と開発への課題:緊急に成すべき行動- 12 箇条のキー・メッセージ-」公益財団法人旭硝子財団(2012.2.20 発表、於「国連環境計画」本部(ケニア、ナイロビ)